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第2話

 しばらくすると看護師が朝食を運んできてくれた。可能性としては低いと思いながら少年は、昨夕脳裏に巡らせたことを実行に移すことにした。
 少し、話を聞いてもらえますか、そう前置きすると、いいわよ、わたしでよければねと看護師が快く受け入れてくれたので、少年は声の調子(トーン)を落として尋ねた。事故現場からこちらの病院に搬送されたのは、おれだけですか、と。看護師は驚いたような表情を見せたものの、すぐにいつもの明るい笑顔に表情を改めたが、返事まで少し間があった。少年は焦らずに看護師の言葉を待った。
 えーとね、あの日は沢山の人が搬送されたの、あなたも知っていると思うけれどね。そう話す看護師は明らかに動揺していた。少年は更に続けた。二十代の男性が、たしかおれと同じように危険な状態にあったって、ワイドショーや週刊誌で取り沙汰されているようなんですけど、その人は、ここに、いますか、少年は心の内の激情を鎮めながらポーカー・フェイスを装った。
 少年が見せた感情のとぼしい無表情を目にした看護師は、感情を涙として溢れ出していた、あのか弱い少年とは異なる一面を見せられて色を失ったようだった。それでも、なにか話さなければと思ったのか、両手を揃えて何事もなかったかのように答えた。
 ごめんなさいね、ほかの患者さんのことは話せないの。守秘義務があるのよ、わかるわよね、逆に問われた少年は、明るく笑いながら応えた、そうですよね、と。
 それじゃあ、またなにかあったらナース・コールで呼んでね、それだけ話すと看護師は、病室からそそくさと出て行こうとした。少年は看護師を呼び止めて、更に尋ねた。もしかしたらなんですけど、こちらの病院にいるのではないですか、と。看護師は、病室のドアの前で少年に背中を見せたまま、えーとね、わたしの担当している患者さんの中にはいないわ、そう言ってから少年に振り返った。ぎこちない笑顔だった。
 そうですか、もしかしたら、と思ったんですが、ふーん、そうですか。少年は顎に手をあてて、非常に冷めた目を看護師に向けた。明らかに挙動不審な看護師は、そんなことより、早く食べないと冷めちゃうわよ、そうごまかして出て行こうとした。少年は看護師に、これからは自分で運ぶので、もういいですよと声をかけた。看護師は、これも仕事のうちだから、あなたは気にしなくてもいいのよ、そう言って明るく笑いながら出て行った。
 収穫は充分過ぎるほどあった。明らかに隠している。わざと話題をすり替えた。それに、病室から出て行った際の足取りは、恐ろしいモノから逃げるようだった。
 この院内に加害者がいる。少年は確信した。その事実は、震えるほどの高揚感を少年にもたらしていた。

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