鷹祭さんの部屋
鷹祭さんの家に着いた。
今更ながら僕は彼女に質問した。
「っていうか家の人はいいの? 迷惑じゃない?」
「あぁそれなら大丈夫だよ。今日……親いないんだ。帰ってくるのは夜遅くなるんだってさ」
彼女は僕を横目でちらちら見て、モジモジしながらそう言った。
「それはつまり……時間を気にせず本が読めるってことか」
「そゆこと」
彼女は笑顔で頷いてから玄関の扉を開けた。
「それではどうぞ。いらっしゃいませー」
「お邪魔します」
「お邪魔されまーす」
部屋に通された。
「ここが私の部屋だよ。オープンザドア!」
彼女は見せびらかすように部屋のドアを開けた。
「うぉ……。なかなかいい部屋だね。なんかいい匂いがする」
「おぉ……。なかなかにキモい感想だね。アロマを焚いてるんだよ」
「へぇー。それにしてもほんとに片付いてるんだ」
床に余計な物が置いていない。
とてもいいことだ。
「嘘だと思ってたの?」
「うん」
「正直者め」
彼女は僕も横腹を肘で軽くつついた。
「それにしてもアロマか。ナイスアイデアだね。読書の環境作りに取り入れてもいいかも」
「香りって大事だからねぇ。嗅覚に関しても環境を整えたら、あとは味覚くらいかな?」
「そうだね。触覚は気温とか湿度を調整してる。聴覚は音楽を流してる。視覚はまぁいいとして、あとは味覚だね」
「そこでパートナー」
「なんだパートナー」
「私は今朝、クッキーを焼いたのだ」
「え、鷹祭さんお菓子作りとかできるんだ。すげー」
素直に感心した。
「すごいだろ。おやつを食べながら読書と洒落込もうじゃないか」
「最高」
「持ってくるね。適当に座ってて」
彼女はそう言ってベッドの上からクッションを取って僕に投げた。
柔らかいふわふわしたクッションだった。
僕は床にあぐらをかいて、クッションをポフポフしながら彼女を待った。