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 暇なので改めて部屋を見渡した。
なんか思ってたより普通な感じだ。

もっとキャピキャピした感じかと予想していたんだけど。

ふと、本棚に目が留まった。
僕は立ち上がってじっくり観察してみた。

色々置いてるが、本人が言っていた通りミステリーが多い印象だ。

小学生くらいの時に好きだった本がたくさんある。
懐かしい。

「お待たせ~。お、やっぱり本棚が気になるか。適当に取って読んでいいよ」

彼女は持ってきたお盆を一旦勉強机の上に置いて、折り畳み式のテーブルを設置すると、そこの上にお盆を置き直した。

お盆の上にはクッキーを乗せた皿や紅茶の入ったカップが置いてあった。

「あ、なにも訊かずに紅茶用意しちゃったけど、大丈夫だった?」

「紅茶好きだよ。ありがとう。へぇー。ちゃんとおいしそうなクッキーだね。もっと酷いものが出てくるかと思ってた」

「フフフ。私の女子力は53万です」
「バカなッ! スカウターの故障だ!」
「食べてみるといい」

「おひとつ頂こう。モグモグ……んー。普通に美味い。天才じゃん。お店出したら?」
「え~そんなにおいしい?」
彼女は表情をへにゃへにゃさせながら嬉しそうに訊いてきた。

「マジ美味い。食べてみ?」
「うん。私も食べよ。モグモグ……。美味いな。店出せるわこれ」

「でしょ? もっと褒めて」
「美味しすぎる! 毎日食べたいくらい!」

「ありがとう。そこまで言ってくれたら作った甲斐があるよ」

「どういたしまして。……なんか立場入れ替わってない? 作ったの私なんだけど」

「そうですわね。ウフフフ」
「そうですわよ。オホホホ」
僕たちは30秒間、お上品に笑った。

30秒経った瞬間に真顔に戻った僕は本棚に視線を向けた。
「じゃあ、ちょっと本借りるね」
「どうぞー。なにか気になるやつがある?」

「んー。そうだな~。せっかくだしおすすめを読みたいな。鷹祭さんはどれが好きなの?」

「えー。私が好きなやつなんて多分踊橋君はとっくに読んでると思うけど」

「じゃあ僕が読んでなさそうで鷹祭さんが好きなやつは?」
「難しいなぁ……。恋愛小説とか読む?」

「一応読みはするけど、他のジャンルに比べたらあんまり読まないね」

「じゃあこれをおすすめしよう。読んだことある?」
彼女が本棚から抜き取ってこちらに差し出した本を受け取って、表紙とタイトルを確認した。
読んだことのない小説だった。

「読んだことない。読んでみるよ」
「うん! それじゃ、さっそく読もう。ほら、こっちに来て」

彼女は昨日と同じようにベッドの上に座って手招きしてきた。

「待って。流石に人のベッドにズカズカ入り込むほど節操なしじゃない」
「遠回しに昨日の私のことをディスってるのかな?」

「そう聞こえた? ははは。まぁそれについては回答を差し控えるけど、とにかく僕は床でいいよ」

「お招きしたお客様をずっと床に座らせておいて私だけベッドに座るとか嫌なんだけど。ほら、こっちに来なさい!」

彼女は立ち上がって僕に近づいてくると、腕を掴んで引っ張った。
意外と力が強い。
というよりも僕が貧弱なんだろうけど。

「ちょっと! 待って待って! 正直に言おう。平常心を保てる自信がない」
「へ?」
彼女は呆けた声を出して首を傾げた。

「昨日も冷静なふりしてたけど、実は心臓バクバクになってた。読書に集中できないからアレはもう嫌だ」

「そ、そっか。じゃあ、仕方ないね……。それならせめて椅子使ってよ」
彼女は何かを探すようにキョロキョロと視線を慌ただしく彷徨わせながら椅子を指差した。

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