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交通事故

俺は、たまたま通りがかっただけだった。交差点のそばで大きな音がして慌てて見ると、軽自動車が近くの信号機に激突していた。しかも、路上には、その軽に撥ねられたらしい親子らしい、女性と女の子が血まみれで倒れていた。
俺は、すぐにその倒れている親子に駆け寄った。車を止めて降りてくる人、物音に気付いて家から出て来た人などが集まりだしていたが、ほとんどが壊れた軽自動車に閉じ込められている運転手の方に集り、事故でドアが壊れて車内に閉じ込められたらしい運転手のおばさんに「大丈夫か」など、事故の加害者らしい運転手の心配ばかりして、血まみれ親子を前に心配しておろおろするのは俺だけだった。
人生で救急車を呼ぶ機会なんてそうはないだろう、その時の俺は何とかスマフォで状況を伝え、救急車を要請した。
俺は医学的な知識のない素人だったが、とりあえず、ハンカチを出して、怪我のひどい母親にそれで傷口を押さえるように渡した。女の子の方は足や腕が骨折しているようだが、母親ほどの出血はない。
「お、おい、誰か、手伝ってくれ」
事故に気づいてだいぶ人が集まってきていたのに、俺以外、誰も親子に寄り添おうとはしない。
畜生、早く来てくれ、救急車。
母親と女の子は苦しそうに呻き続け、ろくな治療もできない自分の無力さに苛立ち続ける。サイレンの音が聞こえ、俺は、やっと光明が見えた気がしたが、到着した救急隊員は、親子を無視して真っ先に軽自動車の救助を始めた。
俺はたまらず、近くの救急隊員に詰め寄った。
「おい、こっちの親子の方が重傷だろ」
そう、車内に閉じ込められているだけで、そのおばさんは命にかかわるような大けがをしているようには見えなかった。
「あ、はいはい、順番順番」
「順番って、おい」
その救急隊員はちらりと親子を見ただけで、忙しそうに、その軽自動車から運転手を出す作業に没頭し、助け出して、そのおばさんを救急車に乗せると、親子を無視して去って行った。
「お、おい・・・」
俺は唖然としたが、これで事故は終わりとばかりに集っていた野次馬も散っていた。
その頃には、俺も、あのおばさんの血が黄緑色で、親子の血が赤色だったという違いに気がついていた。
いつのまにか、この世界には黄緑色の血の人間が紛れ込み、彼ら黄緑色の血の種が、赤い色の血の人間より優先されるべき存在になっていたらしい。

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