届け物
彼は、安さが売りの居酒屋でひとり飲んでいた。
「いや、見つけましたよ、お兄さん」
そのおっさんは、彼の隣に座った。
「誰だ、あんた」
「何でも屋ですよ。お金をもらえば、ゴミ屋敷の掃除から、逃げた飼い猫探しまで、何でもします」
「何でも屋?」
「はい、今回はあなたへお届け物を届けに来ました。大学生とか嘘ついて、あなたが彼女に教えた住所、学歴、みんな嘘でしたね。探すのに時間かかりましたよ」
「は? 彼女って、誰だよ」
「心当たりが多すぎて、分かりませんか。そうですよね。おたく、有名大学の学生のふりして何人も女性をナンパして、適当に遊んで、飽きたら連絡を絶ってバックレて、すぐ別の女を騙す、こちらが調べただけでも、随分多くの女性からお金を借りて、そのまま姿を消してるようですね」
「なんだ、あんた、俺を訴えに来たのか。これでも、女たちに有名大学のボンボンと付き合わせてやったという夢を与えたつもりだぜ。ま、安いホストみたいなものさ。もし、気に入らなければ、警察に訴えればいいだろ」
「ちょっと待ってください。私は便利屋で、お金をもらえば、何でもするって、言いましたよね。おたくを訴えに来たわけではありません、お届け物がありまして」
「届け物?」
「知ってます、人工中絶って、中のものを吸い出すんだそうですよ」
「は?」
便利屋を名乗ったおっさんは、彼の注文した料理の並ぶテーブルの上に小さな陶器の小瓶を二、三個置いた。
「中絶費用はいらないから、吸い出した中身だけ引き取って欲しいそうです」
彼は思わず、バンとテーブルを叩いて立ち上がった。だが、おっさんの姿はなく、テーブルにはおっさんの置いた小瓶だけが残されていた。
テーブルを叩いた俺を、店内の客と店員が怪訝そうに見ていたが、店内にあのおっさんの姿はない。忽然と消えていた。
彼は、慌ててその小瓶を鞄に詰めて、会計を済ませて、逃げるように店を出た。幸い、あれ以来、新しい届け物は届いていない。