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夫の帰宅

「お姉ちゃん、ちゃんと、聞いて、もう、お義兄さんは死んだってば」
「何、バカなこと言ってるの。あんたも早くいい相手を見つけて結婚しなさい」
「お姉ちゃんこそ、バカことやめてよ、もう死んでるのに、お義兄さんが生きてるふりはやめてよ。もう事故から一ヶ月よ、ちゃんと現実を見て」
「現実って何、夕飯時に押しかけてきて、あの人が死んでる? 冗談でも笑えないわよ」
「冗談じゃなくて、本当なの」
「あ、ほら、あの人が帰ってきた」
「帰ってきた?」
「ほら、チャイム、あのひとよ、あのひと、いつも真っすぐ帰って来るの」
「お姉ちゃん、チャイムなんて鳴っていないから」
「何、そのカメラ?」
「お義兄ちゃんがいないってことを、これで撮って見せてあげる。生きてるなら、これに写るはずでしょ」
「おかしな子ね、ま、いいわ、玄関開けるわよ」
「ええ、どうぞ」
「ガチャ」
「お帰りなさい、あなた」
「ええ、妹が来てるの、私たちの姿を撮りたいんですって。ほら、あなたも笑ってあげて」
「お、お姉ちゃん、何言ってるの、玄関、誰もいないじゃない」
「あなた、まだ、そんなこと言ってるの?」
「だ、だって、ほら、このカメラみてよ、誰も、写って・・・、え?」
「どうしたの?」
「ごめん、お姉ちゃん、ちょっと急用を思い出したから、わ、私、帰るね」
「なに、そんな怯えた顔して、あなたの分の夕飯もあるわよ」
「ごめん、お姉ちゃん、さよなら」
「なに? 慌てて、おかしな子」

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