下校
放課後になった。
僕はそそくさと荷物をまとめて、すべてを置き去りにするくらい高速で教室を出たのだが、鷹祭さんが追いかけてきた。
「おーい。ちょっと待ってよ踊橋君」
競歩の如くスタスタと動かしていた足を止めて僕は振り返った。
「どうしたの鷹祭さん」
「一緒に帰らない?」
「なんで?」
「え、なんでって言われても。せっかく仲良くなれそうだし、また色々話したいからだよ」
「怪しすぎる……。そんなこと言って本当はどっかに連れ去るつもりかもしれない。どうしよう。無難なこと言って断らないと……」
「おーい。聞こえてるぞー」
「やば。聞かれた。逃げなきゃ」
走り出そうとした僕の肩を彼女はガシッと掴んできた。
「なんで逃げるの。なんにも企んでないって。どうしてそんなに嫌がるのさ。私、君に嫌われるようなことした覚え無いんだけど」
彼女はそう言って僕の顔を覗き込んできた。
「なんで? ねぇなんで? どうして答えてくれないの? ねぇねぇ。こっちを向いてよ。答えてよ。なんでなんでなんで?」
「怖いよ! 畳み掛けてくるな! いや、僕みたいなゴミクズ人間と鷹祭さんみたいなフラペチーノ系人間が仲良くするのは改めて考えてみてもおかしい気がするから逃げようと思っただけだよ」
若干引かれてしまったようだ。
彼女はなんともいえない表情を浮かべた。
「卑屈すぎるでしょ。面倒臭いなぁ。なんでもいいから一緒に帰ろ。いつもの子たちに断ってきちゃったから踊橋君に逃げられると私ボッチで帰らなきゃいけないの」
「別にボッチでも帰れるでしょ」
「寂しいじゃん」
「僕はいつも一人だけど」
「可哀想」
鷹祭さんは心底同情するような目を向けてきた。
「哀れまないでくれ。惨めになってくる」
「ってか踊橋君って彼女いる?」
「いらない」
「いや、必要性じゃなくて存在の有無を確認したんだけど……」
「いないよ。いたことない」
「ふーん。まぁ意外でもないけど」
「デリカシーはお持ちですか?」
「どんな色のやつでしたっけ?」
鷹祭さんは首を傾げながら白々しく言った。
「ポイントカードかなんかと勘違いされてます? まぁそんなことどうでもいいんだけどさ。なんで彼女の有無なんか訊いたのさ。僕に恥をかかせるため?」
「一緒に帰るのを嫌がるのは彼女がいるからなのかなぁって思っただけだよ」
「そっか。まぁいいや。もうなんか面倒臭いし、一緒に帰ろっか。グズグズしてないでさっさと帰って本読みたいし」
「おっけー」
そういうわけで、僕は初めて誰かと一緒に下校することになった。