森 その2 あなたの妻になりましょう
門平たちは下山を開始した。
美雪「ふああああ~。もうちょっと寝たかったのにい~」
美雪が大あくびしている。
お前の体はさっき飛び散った男の肉片がついてるんだぞ。
と、言ってやりたいが、そんな暇がない。
門平「(ベルシュタインさん! さっきのやつの仲間たちが報復に来るかもしれない。下山して警察に……)」
ベルシュタイン「(何言ってますの! あんな町の裁判なんて偏見だらけに決まってます! ここにはこなかった! いいわね!)」
ベルシュタインさんは完全に逃亡犯の思考だ。
萌美ちゃんはほめられないからスネてるし。
門平「(あれ?)」
静かだと思ったら、萌美ちゃんがいなくなってる。
門平「萌美ちゃんがいないぞ?」
ベルシュタイン「えっ? どうして?」
美雪「どっかで何かを拾い食いでもしてるんじゃないの? もぐもぐ」
門平「何食ってるんだ?」
美雪「服についてた肉。血がまだ新鮮でおいしいわよ。食べる?」
門平「いや、いい……」
それさっき破壊された男の人肉だぞ、っと、ツッコんでやりたいが、何かがおかしい。
獣の臭いが充満する。
突然山の土から何かが盛り上がってきた。
ベルシュタイン「なんですの!?」
木のかげからも何かが出てくる。
仮面と木の皮や枝なんかを合わせて作った服装。
美雪を運んでいた男たちと同じ格好をしている。
門平「ベルシュタインさん! さっきの男たちの仲間……あれぇ!?」
ベルシュタインはもういなかった。
俺たちを置いて逃げたのか!?
はやっ!?
門平「美雪さん! 逃げるぞ!」
美雪「ちょっと! なんなのよっ!」
門平たちは走り出した。
岩場まで逃げ、小さな洞穴から外をのぞく。
誰もいないが、獣の臭いが濃厚だ。
門平「どうしよう……」
美雪「むがああああああっ!?」
美雪の叫び声に後ろを向くと、足をバタつかせ、上に連れて行かれている。
門平「美雪、ぐはっ!?」
後頭部に一撃を受け、門平は気絶した。
*
門平たちは今、裁判にかけられている。
殺人罪で。
ただ異様だったのは、門平たちを捕らえた住人たちだ。
サル【ティファ】「うほぉ! うほっうほっ!!」
サル【クラウド】「うほうほうほうほ!! うほぉ!! うほほほほっ!」
全員サルだった。
そりゃ日本語がわかるはずがない。
門平たちは下着姿にされ、裁判されているが、もはや何を言っているのかすらわからん。
王「ほうほう。大木が突然落ちてきて、弟が殺されてしまったと。いけないねぇ」
唯一裁判長だけが日本語を理解していた。
イスに座って後ろを向いている。
サル【マミー】「うほうほっ!! うほほほっ! うほぉ!!」
王「なるほどなるほど。そこの女の寝癖が悪すぎて、崖から落ちそうだったので、そこから助けてやったと。起こそうと思ったら、いきなりグレイシー柔術をかけてきたから、手足を縄でしばったと。それなのに、兄が破壊されてしまったんだね」
美雪のことを言っているのか。
興奮したサルが、しきりに美雪を指さして怒っていた。
美雪「違うわ」
縄で両手を後ろで縛られ、座らされている美雪がつぶやいた。
王「何が違うのかね?」
美雪「みんな萌美ちゃんがやったことなのよ!!」
門平「おっおい!?」
美雪「あなたたちを殺したのは萌美ちゃんなのよ! 私たちは彼女の魔力に脅されていただけ。あの邪悪な妖精こそが、悪の権化なのよ!!」
すべての責任を萌美になすりつけた。
ベルシュタイン「そうですわよ! すべてあの萌美さんが悪いんですわ! 私たちはただ彼女に踊らされていただけですわ!」
門平「ええっ!?」
ベルシュタインも萌美にすべてを投げつけた。
門平「(おい、お前ら……!)」
美雪「(しっ! これでいいのよ!)」
ベルシュタイン「(そうですわよ! あの子が見つかったとしても、誰も捕らえられないわ!)」
美雪とベルシュタインが結託している。
確かにそうだけど……。
王「ほほう。そうかね。では萌美とやらに出てきてもらおうか」
門平・美雪・ベルシュタイン「へっ?」
萌美「にゃおっ!」
男がイスを回転させ、正面を向くと、太ももの上に萌美がちょこんと座っている。
こっちに向かって小さな手を振った。
萌美の手にはキャンディがある。
いつの間に……。
王「萌美ちゃん。誰がわれわれの仲間を殺したのかな?」
萌美「お兄ちゃんとお姉ちゃん!」
門平たちを指さす萌美。
美雪「ちょっと萌美ちゃん! 私たち、仲間でしょ! ベストフレンドだったでしょ!」
萌美「知らないもぉん」
友達を売っといて、それは苦しいぞ、美雪!
ベルシュタインさんは顔を青くしてるし。
萌美ちゃんを裏切った俺たちが悪い……。
萌美「パパ、もっとペロペロキャンディほしい!」
王「いいとも。100年分ぐらいあるから、どんどん食べなさい。これからもここにいて、用心棒をしようね」
萌美「はぁい!」
門平・美雪・ベルシュタイン「(買収されてるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!)」
最強の妖精さんが、敵側に寝返ってた。
王「われわれは一致団結した共同体である。貴様たちを『闇の刑』に処す。そこであれば邪念も消えよう。アレを持ってきなさい」
サル【ロナルド】「うほうっ!!」
1匹のサルが、鉄の棒を持ってきた。
先が赤い。
火か何かであぶっている。
アレで俺たちの両目をつぶすつもりなのか!?
ベルシュタイン「待って!」
王「なんだね?」
ベルシュタイン「私……あなたの妻になりますわ!」
門平・美雪「ええっ!?」
王「ほう?」(オスの目になる)
ベルシュタイン「私はまだ若いですわ。子を成すことができます。それに――」(胸の谷間を見せて巨乳を強調)
美雪「こらあああああああああっ!! 1人だけ助かろうって、そうはいかないわよ!!」
門平「そうだよ!! そんなでかいもの、俺にはついてないんだぞ!!」(←そこ?)
王「――うむ」(何かを納得)
美雪「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇっ!! 私も!! 私も一応女だから子供作れるわよ!!」
門平「俺は作れねぇぇぇぇぇぇ!! どうしようぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ベルシュタイン「いいえ。王は私のようなセクシーな女性が必要なのです。あなたたちは用済みですわ」
美雪「裏切ったなオメー!! うぐうっ!?」
美雪がサルのげんこつをモロくらい、その場に気絶させられた。
扱いがひどいっ!!
門平「ベルシュタインさん!!」
ベルシュタイン「さようなら、あなたたちとの旅は、楽しかったわ」(泣いているが、ちょっと笑い)
門平「いや待って待って!! いやああああああああああああっ!!!!」