バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

若い男が連れ去った

若い男が連れ去ったと証言したのは近所のおばさんだった。たくさんのマスコミに囲まれてご満悦の感じで、カメラの前でインタビューに答えて、テレビ局の配慮で、音声や顔には加工は掛けられていたが、自分で、テレビに映ったと自慢するように言いふらし、その証言があたかもすごく事件解決に重要な証言であるかのように広まり、警察も若い男を容疑者として捜査を進めているようで、事件には無関係でたまたま近所に住んでいる若い男ということで二十代でフリーターをやっている俺のところにまで刑事が聞き込みに来た。その聞き込みに来たのを近所のおばさんに見られたらしく、俺の知らないところで、俺が警察に容疑者扱いされているという噂になって広まり、外を歩いているとおばさん連中から妙な視線を感じるようになり、ついには、アパートの俺の部屋のドアにロリコン、変態、犯罪者などの走り書きされた紙を貼られるようになった。警察にも相談したが、警察は消極的で、むしろ、俺が自分が犯人ですと自白するのを待っているかのような対応で、貼り紙だけなら可愛いもので、夜中に、子供を返せとドンドンとドアを叩かれることも多くなった。
寝不足になり、精神的に不安定になった俺は、駅のホームで飛び込み自殺をした。その自殺した日に、行方不明だった子供の遺体が、近所のため池から発見され、検死の結果、事件性はなく、子供が誤って池に落ちた事故と警察は発表し、マスコミにどういうことなのかと詰め寄られたおばさんは、注目されたかっただけで、自分の証言が虚偽であると認めたのは、俺が自殺した後であり、あんたの虚言で無実の人間が自殺したとマスコミが取り上げて話題になり、追い詰められたおばさんも、精神的に不安定になり、夢で俺に責められると周りに漏らして、首つり自殺した。

しおり