本物の殺人鬼
「先輩、まだ息がありますよね。僕は、歴史に残る殺人鬼になりたいんですよ」
「ほら、映画の登場人物のモデルになるような超有名な殺人鬼ってやつです。いずれ僕も捕まると思うから、それまでに、歴代最高の犠牲者を出した殺人鬼ってやつになるつもりです。ギネスに載るかな?」
後輩は、俺の血で汚れた手を見せびらかすようにしゃべり続けた。自分の傷口を見なくともその後輩の返り血で自分が、もう助からないのを理解しながら、後輩の独り言を最期に聞く。
「ジャックザリッパーだって、人を残酷に殺したから現代まで語り継がれる存在になった。憧れません、そういうの」
「ふ、ふざけるな、頭のおかしい殺人鬼が・・・」
「先輩には、頭がおかしく見えるでしょうが、僕にとってはすごく、正常な思考なんですよ? ひとつ面白い話をしましょうか」
「実は、僕が殺した男の遺体が見つかって、犯人不明のまま葬式が行われて、それに何食わぬ顔をして参列したら、偶然、香典ドロを見つけて捕まえて、殺人犯である俺に喪主の家族が涙ながらに感謝したんです。殺した相手に感謝ですよ。滑稽だと思いませんか」
こいつは、悪魔だと思った。悔しかった。このまま死ぬのは、無念だ。せめて一矢報いようと傷だらけの上半身を起こしてその首を掴もうと右手を伸ばす。
「お、危ない」
自分ではすごく早い一撃のつもりだったが、傷ついた肉体の動きは散漫で後輩の頬を軽く引っ掻いただけで俺は力尽きた。後日、俺の遺体が発見され、俺の爪の先から、後輩の微細な皮膚が検出され、それを証拠に、後輩の殺人記録は止まった。