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笑顔

目を開けると、そこには殺したはずの彼女が笑顔で立っていた。いつも通りニコニコとした何の疑いのない目で俺を見ている。俺を恨んで化けて出たという雰囲気もない。俺が首を絞めたときも、一切抵抗せず彼女は死んだ。そう、確かに殺して、その遺体は、山の中に捨てたはずで、ここにいるはずない。目を閉じ、これは幻覚、幻覚と自分に言い聞かせ再び目を開けるが、そこにはやはり笑顔の彼女がいた。彼女は俺の部屋は当然、通勤電車、仕事場、トイレの中までと、どこに行っても目を開けると必ずそこにいた。彼女を殺したことを周りに悟られないように彼女が見えても普段通りの生活を続けた。
殺したはずの女の幻覚が見えるなんて、誰に相談できようか。殺人の秘密を打ち明けられるような親友はいない。相談しても罪の意識の表れだから警察に自首を勧めそうな知人しか思い浮かばない。もちろん、俺は殺人犯として自首する気はない。ひどいかもしれないが、あんな女一人のために一生殺人犯として生きる気はない。あいつが一方的に俺に付きまとってきて、俺はうざかったから殺したんだ。俺は何も悪くない。いまでもそう思っている。
しかも、死んでからも俺に付きまとうなんて最低最悪だ。殺せば彼女から自由になれると思っていたのに、どこにでも現れる今の方がやっかいだ。当然ながら俺は次第に精神的に参ってきて、彼女から逃れるには死ぬしかないと飛び降り自殺を実行した。これで自由だと思って目を開けると、目の前にはまだ彼女がいた。それもそのはずで、俺は自殺したことで逆に彼女と同等の幽霊になっただけで、むしろ同じ幽霊になったことで、彼女を喜ばせただけだった。

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