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電車の隣

電車の隣に座ったおっさんが、ブツブツと独り言をつぶやいていた。
「俺は悪くない、悪くない悪くない、本当に悪くないんだ・・・」
うるさいなぁと隣で思いつつ、俺は目をつむって寝たふりで無視していた。すると、そばでつり革を握って立っていた女子高生も、
「私は悪くない、悪くないもん、絶対に私のせいじゃないもん」
「俺は悪くない、悪くない悪くない・・・」
「私のせいじゃないのに、悪くないのに、私は悪くない・・・」
「俺のせいじゃない、俺は知らない、俺は悪くねえぞ、畜生・・・」
車内の乗客全員が、なにやら自分は悪くないとつぶやき始めて、さすがに寝たふりがつらくなり、パッと目を開けると、乗客がいつの間にか俺を取り囲んでいて、目を開けた俺をバッと指差した。
『お前が、悪い』
乗客が、俺を罵倒するように全員で一斉に叫んだ。そして、車内でその乗客たちに集団リンチされた俺の死体が見つかったが、加害者である乗客たちは全員『自分は悪くない』とそろって犯行を否定した。

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