18 ホコリのイカヅチ
アルブス城の奥にある礼拝堂には、由緒正しきカミサマ像が安置されており、王族の心の拠り所となっている。普段は特別製の布のローブを纏い、わずかにその顔が覗き見えるだけ。カミサマの姿がどんなものなのか知る者は少ない。だがそれでこそ神秘性が保たれている。
「やれえ!エリオットぉ!」
そのカミサマのローブを剥いだ罰当たりが叫ぶ。全身が露わになったカミサマは、大変失礼ながら胸はつるぺた、しかし下半身はもっこりもしていない。結局、カミサマの性別はよく分からなかった。
そんなカミサマへの暴挙が重なる。尊き神具である
更には手を加え、青い光を放つエリオット専用セプターに作り替えてしまったのだ!
「うるさいな!エリオットがベスティフォンを倒すところでしょうが!!」
「ミチル?誰と喋ってんだ?」
「え?あれ?何だろ、何でもない!」
ミチルは自分が脱がせたカミサマ像を振り返って舌をペロっと出して見せた。
ごめんね、後でちゃんと謝るから。今はエリオットを応援して!
「……へっ、ばーか、よそ見なんかしてんじゃねえよ」
「えっ」
「よく見とけよ、おれだけをな」
ヤダァ!それって伝説の「俺以外見るの禁止」ってやつでしょ!?
ミチルはエリオットが不敵に笑う顔にドキドキしてしまった。ヤンチャなギャル男イケメンって結構イイ!
ギャオオース!!
ミチルののぼせ上がった感情をかき消すような雄叫びをベスティフォンが上げた。
だがエリオットはそれを悠然と構えて見る。
「わかった、わかった。無視して悪かったよ」
「ギャオケッコー!!」
「そうだな、鳥には鳥……だな」
言いながらエリオットは右手でセプターを握ったまま高く掲げた。
「おれもさあ、本で読んだだけの聞きかじりだから加減ができねえのは勘弁な……」
セプターの青い宝珠に、バチバチと音を立ててエネルギーが溜められていく。
「へへっ、しかもローストチキンの作り方も知らねえときた。世間知らずで悪いな」
宝珠からエネルギーの塊が飛び出して、次第にそれは鳥のような形を成していく。
「王家の誇りを食らえ、
「ゼロ詠唱!?即ち詠唱破棄だと!?」
「待って王様、そのワード、カッコ良すぎるっ!!」
オルレア王とミチルの興奮すらもかき消して、エリオットが繰り出した青い|雷《いかずち》の鳥がベスティフォン目がけて飛んだ。
電気エネルギーをバリバリと撒き散らして、サンダーバードがベスティフォンを襲う。忽ちに雷の玉になった。
「あばよ!」
まるで指揮者のように、エリオットがセプターを下げると、雷の玉は黒い影もろとも収縮し、みるみる内にビー玉ほどのサイズになった後フッと消えた。
「はわぁ……っ」
あっという間の出来事に、ミチルは惚けたままで固まっていた。
「ミチル!」
笑顔を輝かせてエリオットが駆け寄ってきたと思ったら、そのままぎゅっと抱きしめられた。
それから頬を寄せ、耳たぶにエリオットの熱い吐息がかけられる。
「にゃあああ!」
ミチルは腰から力が抜けそうになったけれど、エリオットががっしりと支えてくれていた。
「見たか?ミチル!惚れたか!?」
──惚れちゃいそう!!
無邪気に笑うギャル男プリンスに、ミチルはあわや陥落寸前。
「うおおおっ!」
吊り橋効果はもういいっつーの!
ミチルはすんでの所で立ち止まる。
「惚れてたまるか!ギャル男がああ!」
「またまたあ、無理しちゃって!」
「してなぁあいッ!!」
真っ赤な顔で否定する姿に、あまり説得力はなかった。
そんなミチルの様子をエリオットは満足げに眺めながら呟く。
「まあいいや。ゆーっくりやってやんよ」
悪戯な光を宿らせるその瞳に、ミチルはやっぱりドキドキ動悸が止まらない。
「おれがいじめたいのはお前だけだゼ!」
ウィンクバッチーン!
ミチルの心臓、ドッカーン!
「い、息がっ!息が出来ない……っ!」
ミチルがよろめいていると、大きな影がミチルの前で跪いた。
「へ?」
それはオルレア王だった。ミチルの前でかしこまりながら言う。
「貴方は……チル神様」
「──ええっ?」
ミチルの感情はよく分からない方向へ飛んでいった。