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17 脱いだらスゴイ

 オルレア王の放った炎の魔法は、確かにグリフォン型ベスティア(ベスティフォン)を焼き払った。
 だが、全てを消し去ることは出来ずに微かに残った霧から、ベスティフォンは復活してしまった。

「コケエエエッ!!」

 頭が鷲のはずなのに、ベスティフォンの雄叫びはニワトリっぽくなっていた。
 だが、そんなことはどうでもいい。復活してしまったこの黒い獣をどうするかが問題だ。

「父上の魔法が効かねえ……!?」

 エリオットは困惑と悔しさで顔を歪めていた。

「むう……やはり、カエルレウムのフォラスでないと致命傷は与えられんか」

 オルレア王の呟きにミチルは未知の単語を発見して首を捻った。

「フォラスって?」

 ベスティフォンに対峙する王の代わりに、エリオットが教えてくれた。

「カエルレウム製の金属だ。銅と錫と……門外不出の何かで合金されてるらしい。それがカエルレウムの騎士の魔剣になってる」

「ははあ……」

 もっともらしく頷いてはいるが、ミチルにはあまり良くわかっていない。

 コケッコッコォー!!

 だがそれ以上講釈を受けている余裕はなかった。ベスティフォンの雄叫びは衝撃波になって三人を襲った。

「……ぬぅん!」

 オルレア王が見えない壁を作って、その攻撃を防ぐ。きっと防御魔法だろうなとミチルは考えた。

 コケエエエ、コケッ!コケッコッコーォオオ!

 ベスティフォンは衝撃波を繰り出し続ける。オルレア王は防戦一方で、苦悶の表情を浮かべた。

「ぬぅうう……!」

「ち、父上……」

 エリオットは不安な顔で父親を見る。その感情はミチルにも伝わり、二人の間には悲壮感が漂い始めた。

「エ、エリオット!なんかないの?王様は防ぐだけで大変そうだよ!」

「それはわかってるけど……」

「魔法書、沢山読んだんでしょ?なんか攻撃とかできない?」

「お前、おれは引きこもり歴十年だぞ?頭だけでわかってても実戦になんか使えねえし、使ったこともねえ!」

 そうだ。エリィはずっと部屋に閉じこめられていた。
 例えば魔法の練習をするにしても、屋内では碌に出来なかっただろう。
 ミチルは無理難題を言ってしまって後悔した。でも、他に考えが浮かばない。

 どうしよう、どうしよう。なんかないか、なんかないか?
 ミチルだけでなくエリオットも何か手段を探す。だがここは礼拝堂。武器すらも、ない。

 ふとミチルは祭壇を振り返る。そこには、穏やかな顔で祈る女性とも男性とも思えるような美しい像が立っていた。
 ローブで覆い隠された像の顔は、清廉な瞳だけを覗かせてミチルを見つめている。

「エ、エリオット……」

「父上!?」

 オルレア王は防御魔法を出し続けながら、息子に希望を託そうとしていた。

「アルカナ像の……ローブを……」

「ええっ!?」

 エリオットが言われて振り返ると、すでにミチルが祭壇の像へと近づいていた。

「ミチル……?」

 その様子に一瞬目を奪われたエリオットは棒立ちになった。けれどすぐに父の声で我に帰る。

「アルカナ像が着ている、ローブを剥げ!杖を……!」

 コッケエエエー!!

「ぐああぁ!」

 ベスティフォンは衝撃波を吐き続ける。翼をバサバサ羽ばたかせてその起こす風さえもオルレア王を襲った。

「父上ぇ!」

「私はいい!早く杖を……王家の杖を使うんだ!」

「杖!?そんなものが──」

 エリオットは改めて祭壇の像を見た。すると、すでにミチルが像の纏うローブに手をかけていた。

「ミチルッ!?」

「おらああぁぁッ!!」

 ミチルは勢いに任せて、像が着ているローブをバサーッと剥いだ。現れたのは神々しくも白く光る美しい人の像。彫刻されているのは簡素な布で身体の大事な部分を隠すのみの半裸像である。その半裸のカミサマは手に宝珠で飾られた王笏(セプター)を持っていた。

「これ貸してね!」

 ミチルは躊躇わずに王笏を引ったくるように手に取った。

「ミチルゥウ!?」

 さすがにエリオットも驚きで固まった。ミチルがやったのは、アルブス人からすれば神を侮辱する行為だったからだ。

「やいこら、このニワトリコケッコー!!」

「コケッ!?」

 ミチルは王笏をベスティフォンに向けた。そのポーズは予告ホームランのアレである。

「よくも親子の和解を邪魔してくれたなあ!お前なんか、この小悪魔ギャル男プリンスとモブ学生が木っ端微塵にしてやらあ!」

 ミチルの叫びに呼応するように、王笏の宝珠が光った。水晶のように無色だったものが、次第に青く染まっていく。眩い青い光はミチルを一瞬包んだ後、王笏の宝珠に固定された。

「エリオットォ!」

 ミチルは王笏をエリオットへぶん投げる。クルクルと回転しながらも、それはエリオットの手に吸いつくように収まった。

「これは……」

「倒せ!エリオット!」

 ミチルの声と、手中のセプターを見ていると、エリオットは不思議と力が湧いてきた。

「ヤベエな、これ……」

「エ、エリオット……ッ!」

 父王の限界が近づいている。エリオットはその背に向かって静かに言った。

「父上、代わってくれ」

「──やれるのだな?」

 エリオットはにまぁと笑って頷いた。

「ああ!」

 もうあんな鳥は怖くない。ただのローストチキンの材料だ。

「覚悟しやがれ、ベスティフォン!!」

 エリオットの握るセプターの青い宝珠が、ますます青く輝いた。

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