2 側室にしてやる!
高らかに笑いながら、怒号し続ける美少年をミチルはなんとか黙らせようとした。
「ハーッハッハ!クソがあ!クソ親父めがぁ!!」
「あのね、ちょっと、ボクの話を聞いてもらえません?」
「がああ、ムカつくぅう!いつかあの親父をこうしてこう!そんでもってこう!」
美少年がベッドの上でドタバタするものだから、ミチルも一緒にボヨンボヨンしてしまう。
なかなか体勢が保てない中、ミチルは美少年の瞳が潤んでいるのを見た。
「バカァ!バカァ!皆、大っ嫌いだあぁあ!」
「──もう!落ち着こうよ!」
ミチルはなんだかよく分からないけれど、美少年を抱きしめた。と言うか、美少年に飛びついた。
「うわあ!」
勢い余って二人でベッドに倒れこむ。
「あのさ、何をそんなに怒ってるの?言ってごらん!聞いてあげるから」
美少年を抱きしめたままミチルは言った。年下の少年が、こんなに泣きそうになるほど親に怒るなんてただの反抗期ではない。
何か複雑な事情があるのかも。そしてそれはミチルが聞いたところで何も出来ないかもしれない。
それでも、ミチルは目の前で何かを求めるように怒る美少年を放っておけなかった。
「ね?とりあえず怒るのやめ……」
必死だったミチルは漸く気づく。美少年の顔が鼻先が触れるほど近くにあることを。
「──!」
う、美しい!
ミチルは美少年の真珠色の肌に目眩がした。
フランス人形みたい!
サファイアのように青く輝く瞳はミチルをじっと見つめていた。
やだあ!美少年がオレを見てる!
美少年は見たいけど、自分は見られたくない!
「……ねえ」
美少年はその薔薇色の唇から吐息を漏らした。
「え?」
「キス、する……?」
ど・直球!
愛に震える美少年におねだりされたっ!
心臓がいつものように砕けたので、ミチルは慌てて飛び起きた。
「し、ししし、しないよっ!」
興奮で真っ赤に燃え上がる顔のままミチルが言うと、美少年もゆるゆると起き上がった。
「ちぇー、なんだよ、慰めるなら最後までやれよなあ」
「さ、最後まで、とは……?」
美少年は顔に似合わない、下卑た笑いを浮かべた。
「お前が全裸になって、僕にご奉仕すんだよ」
「きええええっ!」
とんでもねえエロガキじゃねえか!
だが、想像して心臓が粉微塵になったミチルは言葉にならなかった。
「アハハ!赤くなったり青くなったり、面白いなお前!」
「あーたがセクハラぶちかますせいでしょうが!」
焦点定まらない顔で反論するミチルを見て、美少年の瞳に輝きが宿る。
「……お前、名前は?」
「ミ、ミチルです……」
「ふうん、ミチルね。ミチル、ミチル……ミチルかあ」
「そんな連呼しなくても……」
美少年は突然ミチルの手を握って笑った。
「僕はエリィ!喜べ、ミチル!今からお前は僕の筆頭愛妾だ!」
「は?」
ヒットウ、なんですって?
ミチルは言葉の意味がわからなくて呆ける。いや、なんかわかりたくない気がする。
「わかりやすく言うとな?最高位の側室だ!」
「そ、側室!?」
大河ドラマとかで聞くやつ!?ミチルはあまりの事に言葉が出なかった。
エリィは握ったミチルの手をさわさわしながら、更に続ける。
「本当は妃にしてやりたいが、お前は使用人出身だからな。でも僕の愛はお前だけのものだぞ!」
「あのー……ボク、男ですけど?」
「だから何?」
キョトンとして言うエリィに、ミチルは更に度肝を抜かれた。
そんなことある!?なにここ、ジェンダーの壁がとっくにないの!?
「ああ、お前、コドモが産めないとか気にしてるんだ?愛いヤツ!心配するな、僕のコドモなんか誰も望んでない!」
「え、ええ……?」
早口で捲し立てるエリィにミチルは戸惑う。なんか、最後に変なこと言わなかった?
「お前も知ってるだろうけど、僕は第五王子だからな。それに母上の身分が低いから王位とか全然関係ないんだ!」
「……お?」
ミチルは目ん玉ひん剥いてエリィを指差した。
「王子様……?」
「なんだ?我が妻よ!」
エリィは両手を広げて笑う。熱い抱擁を求めているのだ。
「お、おおお、王子様ぁああぁあ!?」
ミチルの悲鳴は部屋中に響き渡って、窓ガラスをも震えさせるほどだった。