1 悪魔のホホエミ!?
ミチルは体中がふかふかした感覚で目を覚ました。
「う……ん?」
恐る恐る上体を起こして見る。すると体がぽよんと跳ねた。
「わ、なんだこれ!?」
ミチルは、大きくてとても綺麗な布団の上にいた。いや、これはバカでかいベッドか?
そして周りを見回しても何も見えない。四方をカーテンの様なもので覆われていたからだ。
「すご……」
そう。これは、乙女なら誰でも憧れる魅惑のアイテム。天蓋付きベッドである。
先ほどいた森の中とは雲泥の差だった。
「あああ……」
ミチルはがっくり項垂れた。
またどこかに転移してしまったんだ。遠慮して控えめにくしゃみをしたのに。
ジェイともアニーともはぐれてしまった。
ミチルはまた一人ぼっち。
あんなに一緒にいることが慣れてしまった人達と離れてしまうなんて。
初めて異世界に来た時よりも寂しい。
ミチルは涙が零れそうだった。だが、それもすぐに引っ込む。
人の気配がしたからだ。
ガチャリとドアを開ける音がした。ボスボスと鈍い足音が聞こえる。
どうやらここは誰かの部屋で、高級な絨毯が敷かれているのだろう。こんなベッドがあるのだから。
どうしよう、そこまで来てる!
ミチルは体を強張らせた。逃げ場はどこにもない。人影はすぐそこまで来ている。
カーテンの向こう、人影が揺らりと動いた。
バサっと乱暴な音を立てて、ベッド周りのカーテンが開かれた。
「!」
ミチルはその人物と目が合った。
非常に、とても、物凄く美しい少年だった。中学生ほどだろうか、大きな瞳を見開いて固まっている。
おかっぱ頭で群青色の髪の毛にキューティクルが際立つ。
シルクでフリルをあしらったパジャマを着ている姿は気品があり、まるでどこかの王子様だ。
「お前、誰?」
その美少年はミチルをじっと見つめながら口を開いた。
鈴が鳴るようにキレイな声だった。
「えーっと、その、なんと申しましょうか……」
ミチルはまず何から言うべきか迷ってしまった。
そんなに綺麗な瞳で見つめられたら思考力も鈍くなる。
ミチルが戸惑っていると、美少年は何かを閃いたような顔で聞いた。
「もしかして伽か!?」
「えええっ!」
ちょっと、なんて事言うのこの子!
ミチルは面食らって言葉が出てこない。
「なーんだ、そっかあ。悪かったな、ムード壊して」
美少年はニコニコ笑いながらベッドに乗っかってきた。
そのままミチルのすぐ目の前に来てその顎に指で触れる。
び、美少年に顎くいされたああ!
待って何コレ、伽だなんてどこから出るの、そんな言葉!
「ふうん、ちょっと珍しい顔立ちだけど、可愛いじゃん」
「いや、違います!そうじゃなくて!」
ミチルは慌てて首を振ったが、美少年はニヤリと笑って舌なめずりする。
「お前、伽は初めてか?心配すんなよ、僕に全て委ねればいいよ」
「だからぁ!」
美少年はミチルの言葉も聞かず、その頬を撫でつける。それだけなのに、征服されてしまいそうな迫力があった。
「ゆっくり教えてやるよ……どうすれば僕が悦ぶのか。お前がどうされたら悦ぶのかも……な」
「ひいいいぃ!」
見知らぬおじさんの次は見知らぬ美少年にぱっくんちょされるぅうう!
「クックック……」
「ひぃやああぁあ!」
「アーッハッハッハ!!」
突然美少年は顔を歪ませて高笑いをした。美少年が一変、悪魔のようだった。
「伽が男だなんて、父上はどこまで僕をバカにすれば気がすむんだぁ!!」
「……ほへ?」
美少年は惚けたミチルを解放して、冷たく言い放つ。
「おい、お前。もう行っていいぞ。褒美は好きなだけとらせる」
「いや、そうじゃなくてね……?」
ミチルに行ける所などない。だが美少年は怒りが治まらずもう一度叫んだ。
「クソキングめぇえ!!」
「話を聞いてくださぁい!」
ミチルは負けじと大声で叫んだ。
もうこの少年に事情を話すしかミチルにできることはない。
群青色のサラサラな髪を振り乱して怒り狂う美少年。
彼を宥めるのが、とりあえずのミチルのミッションだ。