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武装準備

本日を以て以下の法令を適用する
1.階級法
本土出身者を特級とし次に虎族を次級、爬虫類種を奴隷階級に置き他の種族を第三級種族とする。
施設等の利用は階級順とする。
2.議会法
植民地長官に意見具申を行うための議会を設立する。
議員は5名虎族に限る、投票は第三級民族のみとし最下級には与えない
3.奴隷法
爬虫類種を奴隷として島内で取引する事を許可する。
新しく奴隷取引所を設置する。
私有財産を持つことを禁じる。
逃亡奴隷の殺害を許可する。
4.農地開発法
農地を官営事業としジャングルを農地に開発する。

「こんな所でどうだ?」
夜更け、満月が窓から見える。
「縛り首になる気ですか?」
タニエットは呆れ顔で返す。
「いや、軍隊をちゃんと持ってから発表するよ?」
「それならいいですけど」
マトモな軍隊を作るまで当面の間施行は先送りとなった。

「軍隊の編成ですが直ぐにはできませんよ」
ミューラー少尉が紙束片手に呟く。
朝食のベーコンサンドを口に入れる。
「なぜだ?、必要なのは装備と人員だけじゃないのか」
「金貨1万枚で理論上三千人以上の軍隊を編成可能なのです」
「十分じゃないか」
「予算がいくらなんでも多すぎます」
「ならどうする?減らすか?」
「海軍も設置しましょう、予算に関しては少しづつ使います」

数日後
一面に青く広がる水平線。
「気をつけて行ってこいよ」
「ご主人もお元気で」
本国、ブリトンへ2週間ばかりの船旅、次に会えるのは3ヶ月後の予定だ。
汽笛の音と共に桟橋から機帆船が離れてゆく。
舷側から護衛の兵士達が水平線の向こうに消えるまで手を振っていた。

「さて、やるか」
タニエットを見送り行政府まで戻ると準備を始める。
「名前はゴンゴ総合商社にしよう」
前世で学習した東インド会社を参考に植民地経営を円滑にする会社を5万枚の金貨をぶち込んで作った。
「ミューラー少尉?ちょっといいか?」
「なんでしょう?」
「ジャングルの開拓をしたいから刑務所に収監中の囚人を島の北部に移送してくれ、囚人の臨時宿泊所は農場の旧工場で頼む」
「354名全員ですか?」
「あぁそうだ」

ミューラー少尉以下50名は直ちに行動を開始した。
北部のアイザンブルク刑務所から鎖で繋がれた縞々模様の囚人を運び出すと、郊外の指定された農場に移送する。
「さっさと歩け!」「もたつくな!」
兵士達は銃剣付きライフル銃を水平に構えブーニーハットを被り厳戒態勢だ。
現場のジャングルに着くと鎖を解いた囚人を一列に並べて鎌や斧を渡した、10m先の背後には兵士が睨みつけるように監視している。
「作業開始!かかれ!」
号令と同時に斧や鎌をを振りかざして木々を切り倒していく。
大木を切り倒しては巨大な根に鎖を巻いて男達がバキバキと引き抜いて次々と運ぶ。

最右翼、怪しげな動きの囚人。
「脱走!」「脱走!」
「撃て!」
ダーン!
耳をつんざく銃声が響く。
走る前に死んだらしい、草むらを担架を手にした兵2人が駆け抜ける。
1時間2時間…夕暮れを迎える頃には丸太と死体が山積みになっていた。

1ヶ月後
「作業完了しました」
「よろしい」
行政府の一室、長官室にて行われた定期報告会に出席できたのは少尉と虎族の代表者である。
「なぜ私も呼ばれたのでしょうか」
虎族の彼ピエールは心底不思議そうな顔だ。
「君達虎族には再び支配者になってもらいたい」
呆気にとられたような顔をして。
「は?、今何と?」
「具体的には私と植民地人の間に立って仲介してくれ」
「つまり緩衝材に?」
冷たい目をして睨んだ。
「私からは軍隊を出そう、君達は武装を解いて支配に集中してほしい」
「随分と都合が良いな」
「もちろん特権も与える、具体的には病院等の施設優先使用権と新しく設置される議会への立候補権だ」
「議会?他の種族は立候補出来ないのか?」
「投票権だけは与えるが他は無しだ」
しかしなぁと前置きした上で。
「そもそも俺達に特権渡したところで反発はすごいぞ、タニエットから聞いてるだろ?」
「もちろんだ、だから対策がある」

引き出しから書類を出した。
「新会社の幹部になってほしい」
「新会社?何のだよ」
「会社の幹部なら護衛を着けても不思議じゃない、そうだろ?」
「うーむ、まぁそうなのか?」
納得したようなしていないような微妙な顔つきのまま報告会は終了した。

3ヶ月後。
農地予定地にて。
様々な種族の者がクワを持ちジャングルの葉と牛糞をすき込む。
この地に無かった施肥という技術である。
「匂いがキツイなぁ」
「そろそろ戻りましょうか」
タニエットが気を利かせて馬車を早めに手配したらしく直ぐに来てくれた。
「次は海上防衛部ですね」
新しく設置された新会社ゴンゴ総合商社は植民地政府とは別の独立戦力を持っている、その代表例が海上防衛部だ。
しばらく馬車で潮風を感じながら移動すると大きな帆柱3本見えてきた。
「あの3隻です」
コンクリートで固められた港には機帆船が3隻、他の漁船を圧倒するように浮かんでいる。
港に到着すると早速艦長が挨拶に来る。
「ノイマルク様初めまして艦長のスギウラです」
「スギウラ?異国の出身か?」
「遠く離れた東の島国、ジャポニアから来ました」
白い髭の彼を見て学院での勉強を思い出した、日本によく似た文化であることも。
「彼は海軍を解雇され軽犯罪を犯して留置所に居た所を私が雇いました、ジャポニアからブリトンまで航海出来るほどの技術の持ち主です」
すかさずタニエットが説明を入れる。
「あと2人の艦長は?」
聞くと指を甲板上に指す。
「まだ訓練中です」
若い虎族の青年が兵士からしごかれている。
「武装は?」
「旧式のガトリング砲3門と最新式の75ミリ砲1門で全艦武装しています」
「なるほど、砲が少なくないか?」
「本艦は商船の護衛が主任務ですからこれで十分ですよ」

行政府に帰る途中、タニエットにふと気になって言った。
「今回の買い物で幾らほど使った?」
「一万枚の金貨の全てです」
「何?」
「特に船と武装が高くつきました、こちら詳細です」
そう言うと紙束を見せる。

渡航費用 一千枚
ガトリング砲1門 二百枚 
機帆船1隻 千五百枚
陸上戦力準備費用 二千七百枚

「きっちり使って来たな」
「無駄にはしていませんよ」
窓の外には堆肥をすき込む本土から集めた人員が見える。
彼らは屯田兵である。

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