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5 皆でアルブスへ!

「ところでさあ、ジェイはどうしてこんな森にいるの?」

 よくわからないけどジェイにひたすら怒るアニーを宥めながらミチルは聞いた。

「うむ。私はアルブスに出張の任務があるのだ。ここを通りかかったらベスティアの気配がしたので見に来た」

「ベスティアの気配!?そんなのわかるの?」

 ミチルが驚いて聞くと、ジェイも少し考えながら答える。

「……言われてみると、わかるようになったのは最近だな」

「へー、ジェイってば強くなったのか……も……」

「む?」

 ミチルはジェイの着ている衣服に初めて注目して驚いた。

 身なりが良くなってる!!

 以前は野暮ったくてムサイ感じの麻の服だったのに、今着ているのは深い青で染められた絹の服だ。
 胸にはなんか飾りが付いてるし、肩にはピラピラまである。
 ミチルは以前特番で見た懐かしのアニメを思い出していた。

 そして身なりが良くなったということは──

 イケメン指数が上がっている!

 麻の服(防御ゼロ)でも指数がカンストするくらいなのに、こんな上等の服なんか纏った日にはミチルのちんけな心臓は砕け散る。

「ジ、ジェイさ……その格好、どうしたの?」

 ドッキリドキドキドーキドキがぶり返したミチルはそう聞くのが精一杯だった。

「ああ、近衛歩兵隊として王宮に召集されたのだ」

「えっ!それって出世したってこと?」

「うむ」

 ジェイは誇らしそうに頷いた。ミチルは飛び上がって喜ぶ。

「わあ!良かったねえ!ケルベロスティアを倒したから?」

 ミチルが転移する前に、3メートル級のケルベロス型ベスティアを倒したことが脳裏に蘇る。

「ベスティア主のことか?それもあるが、その後ベスティア討伐部隊の部隊長に任ぜられてな」

「へええ!」

「そこでベスティアを38匹倒したら王宮に来いと言われた」

「さっ……!」

 後ろで話を聞いていたアニーは思わず声を上げた。武勇で遅れを取ったと人知れず焦る。
 
 ミチルが羨望の眼差しでジェイを褒め称えた。

「す、すごいねえ!すごいよ!やっぱりジェイは強いんだね」

「ミチルが再生してくれたこの大剣のおかげだ」

 背中に背負った大剣の柄をぐっと握ってジェイは微笑んだ。
 キラキラスマイルビームがミチルの心臓をつん裂く!

「にゃー!」

 騎士の格好でイケメン指数がマシマシになっている笑顔の破壊力は計り知れない。
 前門にイケメン(ジェイ)、後門にもイケメン(アニー)
 もうミチルはこの心が平静でいられる術を探すのも難しい。

 

「それで?ミチルはどうするの?」

 後門のイケメン、アニーが少しうんざりした顔をしながら聞いた。
 いつもニヤニヤしているアニーがジェイが現れてからずっと険しい顔をしている。
 ミチルは違和感の正体を妄想するけれど、そんな事はないだろうと打ち消してから答えた。

「う……ん、出来ればジェイと一緒に行動したいんだけど……」

 アニーがあまりジェイと反りが合わないならどうしたらいいんだろう。
 ミチルは許されるならこのまま3人で旅的なものをしたかった。
 決してイケメンに挟まれたいとか、そういうことではなくて。
 ……心細かった。

「アニーは、……嫌かな?」

 ミチルは恐る恐る聞いてみた。打算はないし、あざとさを演出しようとも思わなかった。
 ただ、アニーがどう思っているか知りたいのに拒否されたらどうしようという気持ちが、自然と上目遣いのおねだり的顔になってしまった。

「……狡いな、君は」

 アニーは大きく肩で息を吐いて観念したように笑う。

「いいよ。ミチルの好きにして。俺は君から離れないって決めてるんだから」

「──ありがとう!」

「……っ」

 ミチルが御礼を言うと、アニーは一瞬だけ固まってくるっと背を向けた。

「どしたの、アニー?」

「ちょ、ちょっとタンマ……」

 アニーが何に悶絶しているのか、ミチルにはわからなかった。

「ミチルとアニー殿も一緒にアルブスに行ってくれるのか?」

「あ!えっと、出来ればそうしたいんだけど、いいかな?ジェイ?」

 ミチルはまた自然とおねだり顔で聞いてしまった。

「もちろんだ。こちらから是非お願いしたいと思っていた」

「ああ、良かったあ!」

 爽やかな笑顔で笑うジェイを見て、アニーはまた一人呟いた。

「ウソだろ、あいつ、人の心がねえ……」

 そんなアニーの恨み言は当然聞こえないジェイがつけ加えて言う。

「実は任務というのは、この大剣についてアルブスで調べてもらう事なのだ。これはミチルが再生してくれたのだから、ミチルが立ち会ってくれればもっと詳しい事がわかるかもしれない」

「ええ?それってホントにオレがやったのかなあ?偶然じゃないの?」

 ミチルにはそんな実感が全くないし、自分に魔法が使えるとも思えない。

「私はそう信じているが」

「ジェイの気持ちは嬉しいけどさあ……」

 ミチルが半信半疑でいると、ようやく理性を取り戻したアニーも口を挟む。

「偶然ではないと、俺も思うよ」

「アニーも?」

 アニーは自分のナイフを取り出してジェイに見せた。

「ほら。俺のこれも青い刀身だろう?ルブルムでベスティアってのに襲われて折れたんだけど、ミチルが再生してくれたんだ」

「おお!それは凄い!」

 アニーの説明に、ジェイはいつになく興奮した面持ちで言った。

「ならば貴殿のそのナイフもアルブス王に見ていただこう!二例もあればこちらも頼みやすい」

「ああ、そう?別にいいけど」

「よろしく頼む!アニー殿!」

 ジェイのイケメンキラキラビームはアニーにもちょっと効く!

「ぐぬぬ……だからお前と俺はイーブンなんだからな!調子乗ってんじゃねえぞ!」

「む?何がだ?」

「ていうか、こっちはすでにミチルとあーんなことやこーんなこともしちゃってるんだからな!ザマーミロ!」

「アニイイィイイ!!」

 大人の尊厳は何処に?ミチルはアニーが急に幼くなったような感覚に襲われた。
 ジェイのキラキラビームには幼児退行の効果でもあるのか?

「ジェイ!今のは忘れてよね!キレイサッパリ!!」

「わかった」

 それで多分ジェイは忘れるだろう。ぽんこつだから。人を疑うということを知らないのだから。

「じゃ、じゃあ向かおう!そのアルブスに!」

 ミチルはわざとらしく音頭をとる。そうでもしないと収拾がつかなかった。
 意味もなく指差した空は、すっかり晴れ渡っていた。

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