4 タイケツなのか!?
狐型ベスティアに襲われたミチルとアニー。
アニーは青いナイフを取り出して応戦しようとした。
だが、一足早くベスティアを圧倒的な強さで一刀両断した者がいた。
ジェイ・アルバトロス。ぽんこつナイトである。
「あ……」
ミチルはその姿は夢だとまず思った。
黒くて固く短い髪。涼しげな目元にたくましい長身。
「ミチル……?」
青い大剣を背中の鞘に収めた後、彼は数歩先の姿に黒い瞳を揺らしていた。
い、今呼ばれた!?
夢じゃないの?ジェイがそこにいるの!?
「ジェイ!」
ミチルは反射的に叫んでいた。とても懐かしい姿に駆け寄ろうと立ち上がる。
「……ミチル!」
立った瞬間、耳のすぐ近くでジェイの声が響いた。
ミチルが駆け寄るより早く、ジェイはその姿を抱き締めていた。
「ジ、ジェイ……」
「会いたかった……ッ!」
ええええ!ちょっと待ってちょっと待って、何コレェ!?
ジェイが抱きついてきたんだけどぉ!
ものすごくいい匂いもするんだけどぉ!
「あいつ……躊躇なく抱き締めやがった……」
アニーの呟きは二人には聞こえなかった。
「ああ、ミチル!また会えると信じていた……!」
ジェイは喜びを隠さずに更にミチルを強く抱く。
ほぎゃあああ!そんなにすりすりしないでぇえ!おかしくなっちゃう!!
ミチルはドキドキドッキドキで心臓が飛び出しそうだった。
「あのー……」
アニーはようやく二人に近づいた。
「いい加減離してあげれば?あんた、そんなに力任せに抱き締めたら窒息するかもよ」
「む?……ミチル、すまない!大丈夫か?」
ジェイは言われてすぐにミチルの体を解放した。
ミチルはドキドキでクラクラでフラフラだった。
「ら、らいじょぶ……だいじょび……」
「ほらあ。ミチル、ちゃんと立てるかい?」
言いながらアニーはミチルの肩と腰を支えた。その後軽くジェイを睨む。
男達は互いが最大のライバルであることを瞬時に悟った。
「うん?」
……訳ではなかった。
ジェイは首を傾げてそこに佇んでいる。
「貴殿は?」
ジェイが聞くと、アニーはわざとらしく笑って答えた。
「アニー・ククルスっていいます。ミチルの!連れですよっ!」
「ミチルの?」
二人のやり取りに、ようやくミチルが入ってくる。まだ少し頭がクラクラだけど。
「うん、そう。あのね、オレ、ルブルムって所に飛ばされてね」
「ルブルム?南の大陸のか?」
「南かどうかはオレはわかんないけど、そうそう。そこでね、このアニーに親切にしてもらって……」
親切にセクハラされたことはとりあえず黙っておく。どうせぽんこつにわかるように説明など出来ないのだから。
「だが、ここはアルブスだ。どうやってここまで?」
ジェイが言うと、先にアニーが弾んだ声を出した。
「アルブス!?マジ!?ミチル、やったね、ここからならカエルレウムまでは目と鼻の先だよ」
「ほんと?まあでも、ジェイには会えたからカエルレウムじゃなくても別にいいけど……」
ミチルが素直な感想を言うと、アニーはあからさまに不機嫌になった。
「ええー、そうなのぉ?」
「なんか怒ってる?」
「べぇつぅにぃいい!?」
トゲトゲしいアニーの態度が通るほどジェイのぽんこつは柔ではないので、もちろんアニーの嫉妬は無視された。
「それで何故ミチルはここにいるんだ?」
「えっとね、ルブルムでまたくしゃみしちゃって。そしたらアニーと一緒にここにいたんだ」
「彼と?」
ミチルがアニーを振り返りながら説明すると、アニーは得意げな顔で言う。
「そ!ミチルが大量の羽根に襲われたから、俺が守ってここまで来たんだよね!」
「なるほど……確かに私の前からいなくなった時も沢山の羽根が舞っていた」
「ああそう。キミはそれなのに何もしなかったんだ?いや、出来なかったのかな?」
いつになくアニーが不機嫌で挑戦的な物言いをするので、ミチルはなんだかハラハラした。
だが、二人のそんな雰囲気が通じるほどジェイのぽんこつは以下略。
「うむ。確かにそうだ。初めて見た光景だから動けなかった。なんたる不覚……!」
「いや、あの、そんなの当然だと思うけど……」
ミチルのフォローにも耳を貸さず、ジェイはその場で猛省した。
「それに引き換え、貴殿は危険を省みずミチルを守り通したのだな?」
「まあね」
アニーは完全に上位に立ったと確信してニヤリと笑う。
するとジェイはアニーに満面の笑みを向けた。
「なんて素晴らしい御仁なんだ、尊敬申し上げる!」
ああ、出た!
イケメンの輝くキラキラスマイル!
だが相手も同等の超絶イケメン!その攻撃は通じるのか!?
「お、おお……まあな……」
ちょっと通じてるぅう!!
ミチルは二人のやり取りを見て脳内悶絶していた。
カミサマ……いいもん見せてもらいましたわあ……
「貴殿がその勇敢さで、ミチルを私の所まで送り届けてくれたのだな!」
「……はい?」
「本当にありがとう!」
「……」
屈託のない笑顔を向けるジェイに、アニーはまた不機嫌に戻って睨みつけた。
「あのサァ、俺は、ミチルの側にいたいからついてきたの!だからアンタに会ったからってハイサヨナラとかしないからッ!」
「む?何の話だ?」
アニーは頭の回転が早すぎた。ジェイはそういう含みができる男ではないことを知らないのだから仕方ない。
「ああァ!?舐めてんのか、オマエ!いくつだワレェ!」
「22歳だ」
「よぉーっし!俺、26ゥ!俺の方が年上だから敬えぇ!」
「わかりました」
「あああっ!でもコイツの方がミチルと年が近いィィ!!」
「ア、アニー!落ち着いてぇ!」
ミチルは慌ててアニーの背中を摩った。まるでいつも脳内でミチルがジェイにつっこむ姿を見るようだった。
百戦錬磨のホストアサシンをここまで翻弄するとは、恐るべしぽんこつナイト!
こうして、ミチルを巡る男達の闘いが幕を開ける……
「む?」
かどうかは、定かではない……