第二一話☆正式な離婚
理香が佐川家で暮らし始めて
三ヶ月程経ったある日の夕方、理香の携帯が鳴った。
「パパからだ……」
鳴り続ける携帯を握り締めたまま動けずに居る理香に
マー君が無言で手を出した。
その意図を理解した理香は携帯を渡した。
『俺が出ていいか?』
一応、確認を取り理香が頷いたことでマー君が電話に出た。
「理香、パパだ」
私たちにも聞こえる様に
受話音量を最大にしてテーブルに置いた。
『こんばんは』
マー君が話し出した。
「誰だ君は? これは娘の携帯だ」
『今娘さんが居る家の家主で佐川と申します』
怒らず、丁寧に対応するのは流石教師だ。
「何故君が出たんだ?」
理香の父親が言ってることは間違ってはいない。
『貴方からの着信を見て出るのを迷って
いましたので俺が出たんですよ』
本人にも確認しましたよと最後に付け加えた。
「娘はそこに居るか?」
『ええまぁ』
何故理香が電話に出るのを躊躇ったか気付いいないみたいだ。
「代わっくれるか」
私たちの間に座ってる理香は何も言わない。
二、三秒考えて首を横に振った。
『理香さんは今出たくないそうです』
マー君がそう告げると激昂して電話口で怒鳴った。
「いいから、今すぐ理香に代わってくれ!!」
驚く様子もなくマー君は冷静に対応している。
『貴方は理香さんの気持ちまでも
考えていますか?
親の都合で引き離される理香さんの気持ちを考えましたか?』
あくまでも冷静なマー君に対し、理香の父親は
未だに憤慨してるのが電話口だというのによく分かった。
隣に座ってる理香が私の服の裾を
小さく引っ張ったので
口パクで、どうしたの?と訊いたら、
ごめんのポーズをした。
私も大丈夫だよとジェスチャーをした。
数分後、マー君が何か言って電話を切った。
『華蓮、理香ちゃん、来週の金曜日に
五人で食事することになった』
それはまた……
『突然だね』
でも、それがいいのかも知れない。
「分かりました……」
理香はやっぱり乗り気じゃない。
『私たちが隣に居るから大丈夫だよ』
***一週間後***
私たちは、佐川家で理香の両親を含め、
五人でリビングのテーブルに座ってる。
『今日はわざわざ此処まで足を運んで頂き
ありがとうございます』
代表してマー君が挨拶をした。
理香は何時も通り、私たちの間の席に座ってる。
中々誰も話そうしない。
シーンと静まり返る昼のリビングは家じゃないみたいだ。
『ほら、空気重いぞ、肩の力抜いて』
やっぱり、マー君は凄いな。
昔から空気を和らげる力がある。
高校時代も生徒同士の喧嘩をよくやめさせてたっけ。
他の教師が仲介に入っても悪化するだけなのに
マー君が言うと何故かすぐ治まるんだよね。
『お二人の中で離婚は決定事項なんですよね?』
私は確信をついて理香の両親に質問をぶつけた。
折角、マー君が場の雰囲気を和ませてくれたけど
私は延ばし延ばしにするのが嫌だった。
その言葉に理香が小さく反応したけど両側から手を握った。
「ええ、そうです」
迷いなく淀みなく答えた理香の父親の表情は読めなかった。
「理香は、どっちについて来る?」
また理香が私たちにしかわからないくらいに小さく反応した。
『理香、本当の気持ちを今此処でぶつけていいんだよ?』
さっき握った手を更に強く握り、そんな言葉をかけた。
「私はどっちにもついて行かない」
二人の目を見てはっきりと言った。
「じゃぁ、住む所はどうするんだ」
言いたいことを察した私たちは理香の頭に手を乗せた。
『今と変わらず此処に住めばいいだけの話です』
そう、此処に居ればいいだけだ。
「それでは、二人に迷惑じゃ……」
今まで一言も話さなかった理香の母親が口を開いた。
『家主の俺が言ってるんですからいいんですよ』
でも…… と言いながら私の方を向いた。
それにマー君も気付いたらしく言葉を続ける。
『あぁ、それなら大丈夫ですよ
妻も同じ意見ですから』
二人が私を凝視した。
「妹じゃなかったのか」
普通はそう思っても変ではない。
私は理香と同い年だし、童顔のせいか
よく実年齢より下に見られることもある。
「二人が結婚したのは
華蓮が高二の時なんだって」
父親の呟きに答えたのは理香だった。
説明の手間が省けて楽だ。
『理香、説明ありがとう』
「どういたしまして」
理香が少し笑ったので私は内心ホッとした。
『私も理香が此処に居たいならいいですよ』
それを聞いた二人はまた黙ってしまった。
結果的に理香はこれからも此処で暮らすことになった。
まぁ、私たちがいいと言っているし
理香もどっちにもついて行かないと
言っていたから当然の結果なんだけどね。
かれこれ二時間弱話をして二人は帰って行った。