週明け
『藍原さん、おはようございます』
会社では相変わらずの名字呼び。
数時間前まで同じ家にいて
名前呼びだったから違和感がある。
二人は受け入れてくれたが
世間では可笑しな関係なのはわかってるから
寂しいが隠すしかない。
『おはよう、裃』
何時ものように仕事の指示を出して
自分の仕事を始めたのは良いが
内心は不安が広がっている。
何故なら、
明るく人懐っこい割にチャラチャラしてなくて
仕事もできるとくればモテるのもわかる。
しているが{恋人}としては
気が気じゃない。
休憩しようと給湯室に入ろうとした時
女子社員数名の声が聞こえてきた。
「裃さんて恋人いるのかな?」
いるよ。
「どうだろう?
今のところ、
そんな素振りはなさそうだけど」
そりゃ、相手は既婚者の男|《俺》だし
一緒に住み始めたのは一昨日からだしな。
『うちの裃は随分、モテるんたね』
何時までも此処にいてもしょうがない。
「あ、藍原さん、お疲れ様です」
まさか、俺が聞いてるとは
思ってなかったんだろう。
『お疲れ、それで
うちの裃はどれくらいモテるのかな?』
情報収集は何においても大事だ。
『俺は小耳に挟んだくらいで
あいつが実際はどれくらい
モテるのか知らないんだ』
「あ、え、と、 そうですね……」
言い淀む程モテるのか(苦笑)
『ありがとう、なんとなくわかったよ』
そんなにモテるなら何で
自分のカップにコーヒーを淹れながら思った。
「藍原さん、溢れそうですよ!!」
手元を見ると彼女の言う通り、
なみなみとコーヒーがコップから
今にも溢れそうになっていた。
『教えてくれてありがとう。
考え事をしていて気付かなかったよ』
「普段、しっかりしてらっしゃる
藍原さんでも
そういう日もあるんですね」
ぁははと笑って誤魔化した。
❬考え事❭の理由が今まさに彼女達が
噂していた{裃}のこととは思ってないだろう。
「私達、もう行きますね。
あまり、思い悩まないでくださいね」
コーヒーのことに気付いた彼女が
ペコリとお辞儀をして給湯室を出て行った。
此処は会社だ。
まだ、午前だし切り替えなきゃな