バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

家族会議

俺の気持ちを伝えたあの日から一週間経ち、今日は退院の日。

二人には話さなきゃな。

{好きな人ができた}と。

退院の日である今日は土曜日。

裃にも今日退院する旨の
メールを送ったら喜んでくれたが
今日は来ないと言っていた。

俺は会いたかったが
折角の休日を邪魔するのも
気が引けるし
明後日になれば会社で会えるから
お礼のメールを送ってスマホを閉じた。

久しぶりの家。

「ねぇ父さん、
二ヶ月も寝られない程
何を悩んでたの?」

俺の言葉を待っている二人に
言いにくいが言うしかないよな……

『裃を覚えてるか?』

「父さんの部下の人だよね?

裃さんと父さんが
寝られなかのと関係あるの?」

覚えてたんだな。

『あぁ、実はな半年前から裃に
告白されててな……』

俺は全て話した。

告白された時は戸惑ったこと。

最初は部下以上の感情はなかったこと。

家族が一番大切だからこそ
裃を{好き}だと気付いた時に
戸惑い、今回の騒動に
繋がったこと。

嘘偽りなく話した。

『すまない』

二人が大切なことに
変わりないが裃を
好きな気持ちも本当で……

「ねぇ、あなた」

ずっと黙っていた妻が
口を開いた。

何を言われるんだろうか……

「クスッ、そんなに身構えないで」

笑った?

「あなたが彼を{好き}なんて
四人で食事をした時から
知っていたのよ。

まぁ、あなたは
自覚する前だったでしょうし
気付いた時に眠れなくなる程
悩んでしまって今回の騒動に
至ったわけだけれど
第三者視点から見てれば
わかることもあるってことよ」

あの時から知っていた?

「彼を見る目が
(とろ)けそうな優しい
眼差しだったからすぐに気付いたわ」

怒るわけでもなく泣くわけでもなく
それこそ、優しい眼差しで
話している妻にどういう
リアクションをすればいいんだ!?

「やっぱり、母さんも
気付いてたんだ」

ずっと黙っていると
息子まで爆弾発言をした。

『待て、
遙緋(はるひ)だけじゃなくて
遙壱(よういち)
あの日から気付いていたのか?』

ヤバい、混乱してきた。

「うん、そうだね。

裃さんが父さんを{好き}っていうのは
すぐに気付いたし食事中の会話で
父さんも{好き}
なんだと気付いたけど
あの時は自覚してなかったんだね」

自覚する前から家族に
知られていたとか……

「なんなら、裃さんも
一緒に住むっていうのはどう?」

またしても、遙壱(よういち)
とんでもないこと言い出した。

『いや、それはどうなんだ!?』

話の流れと場の雰囲気から
二人とも嫌悪感を
(いだ)いているわけじゃ
ないみたいで半分くらいは
安堵していたが{一緒に住む}
っていうのはどうなんだ?

「いいじゃない」

妻まで賛同しているが
状況をわかっているんだろうか?

『二人とも、嫌悪感を(いだ)かずに
いてくるのはうれしいが、
状況をわかっているか?

明け透けに言えば俺が裃を
抱いたりキスをすることもあるんだぞ?』

{抱いてくださ}と
告白の二言目に必ず言ってくる。

「クスクス、わかっているわよ。

あなたが二ヶ月も眠れなかったのは
裃さんを好きだと自覚してしまった上で
私達のことも嫌いに
なれなかったせいでしょう?

彼が同意してくれるかは
わからないけれど、
あなたが彼を抱いたり
キスをしたりしても私達は
軽蔑したり嫌いになったりしないわ」

ここまで理解のある家族は
中々いないだろう。

『二人とも、ありがとう』

「彼が同意
してくれるといいわね」

妻には本当に叶わない。

『そうだな。

明後日、話してみるよ』

しおり