泣きっつらに蜂.6
〔持ち合わせと
〔そうなのか?〕
ふっと、法印の話題にひかれたようにセレグレーシュが聞き返した。
〔うん。その場、間に合わせだよ。あの形では遠からず
(法具の)補充は期待できなかったから、最低限、どんな状況にも対応できるよう
妖威を封じることになるとは思わなかったし。《鎮め》も、いったん拘束して、後で結び直したり補強したりすることがよくあるらしいけど、あの状況で
収容対象に、ひどい波あってね…。
それでも、いちおう
〔じゃぁ、また行くのか?〕
セレグレーシュがたずねると、アントイーヴは、すっと一度、首を左右にふり動かした。
〔《鎮め》か、補強が得意な《法印士》でも
〔君は?〕
〔ぼくは、どちらでもない。法具を管理・販売している店の見習い従業員だからね〕
アントイーヴは、その質問を歓迎しているようにも見えない微妙な笑みをうかべている。
〔無断で持ち出したのなら、
そこで、さらりと警告めいたことを口にしたのは
〔事の後だから借金にはなるけど、修了検定は受けることにした〕
セレグレーシュがすぐには思いが言葉にならないようすで口をあいて、そう補足したアントイーヴを凝視する。
そして、ごくわずかな空白の
「勝手に……持ち出したのか?」
深い理由もなかったが、それをしたとおぼしい
「申請は(
質問者に合わせ、同じ言語で答えたアントイーヴを
使うも盗むも、法具の犯罪は
重罪なのだ。
将来性のある生徒、門人の不始末だ。
腕は良いようだから、悪質と判断されなければ、指導目的の監視役、または後見人をつけられたうえで
一般に流通している危険度の低いものならまだしも(それでも充分問題だが)、法具の流出は環境に影響をおよぼす可能性があり、間違った者の手に渡れば、一般人の手にあまる重大犯罪にも発展する。
こじれれば《神鎮め》や《法印士》の仕事にもなり、そこに《法の家》に由来する要因や過失がない時は無償ではない。
逆をいえば、原因や失態・非がこちらにあることが明らかな場合は、《家》の経費や関わった個人~身内~の
各地にちらばって存在する法印の管理費用は、だいたいが地元負担とされているので、ふつうに運営していても《法の家》にかける出費が少なくない国や自治体では、その罪に対する
法の家でも、法具を盗むような
それが使い手なら、技を
ある種の
家でそんな例がほとんどないのは、怒らせたら恐い先人や
《法の家》の敷地は開放的なので、よく防備の甘さを指摘されるが……。
武力にも戦略兵器にもなりうる特殊な道具をあつかっている手前、その方面のガードはゆるくない。
生徒が授業で
家の外に点在する法具店など、てきとうな《
「――…無断じゃないか」
「うん。そうといえば、そうなんだけどね……」
「よく、持ち出せたな」
〔《ぺリ》のホープだ。監視の目が甘いのだろう〕
(ぺリ…)
少年
(…
それは《家》が創立した頃に見いだされ、いまも続いているという法印使いの名門だ。
家でよく云われる
一般に、心力や法印の技能適性――技巧を現実にするための心力・知力はもとより、素材に対する感受性・鑑識力などは遺伝しないし、なかなか
なかでも、その一族は、血統でかなりのところまで資質が保証される別格なのだ。
どういった理由からか、そうであっても公表されることはなく、絶対数・住んでいる場所・出身とも不明とされるなかに、存在することだけはまことしやかに噂されている。
伝説の《神馬》《炎馬》より、はるかに現実味がありながら、準ずるような存在で…――大きな仕事を
驚きまなこをおさめたセレグレーシュが、現物を視界に、なんとなく納得したような顔をしていると、アントイーヴは
〔べつに、だから甘いということもないと思うよ? そうでなくても《家》は、一度、
▽▽ 場 外 ▽▽
※ 《ペリ》――中東あたりの妖精的存在から、
血統による特殊性は備えておりますが、あくまでも人間です。
〝さる血統〟—《ペリ》以外にも、そう示される系統がいくつか存在します。