65.ドロ試合の予感
雨の空がかき回される。
黒い炎の巨人が宙を舞うから。
失った腰からロケットのように黒い火を吐きながら。
前から見ると1つ目に、頭の左右にもついたは、丸い窓、のような目は無表情のままだよ。
その牙のならんだ口からは、雨にも雷にも負けず。
「うわあああ!!! 」
困惑の叫びを、数秒遅れでひびかせる。
そのままの勢いで落下するのは嫌なのか。
絶妙のバランスで炎を地面に向けている。
良い腕だって思うよ。
「当分、落ちてくることはないでしょう」
はーちゃんがAIらしからぬアバウトな説明をした。
いえ、それは偏見かもしれないな。
それにしても、あの巨人。
なんと言うか、実用的な知識を持ってない感じ?
彼らを鍛えた、閻魔 文華。
いえ、鍛えたと言えるのかな?
はーちゃんを送り込んだのは、閻魔 文華。
だけど、こん棒エンジェルスたちは、閻魔 文華を探せと言う。
どうも、はっきりわからない。
そんな曖昧なもののために、みんなが苦しんでる。
怖くて、腹が立って、身も凍る。
『凍ってないで、自力で降りてくれない? 』
背中から、今は下になってる部分から声をかけられた。
真脇 達美さんの声だ。
灰色のスリムな人型ロボット、七星が、2機がかりで横倒しになったウイークエンダーを支えてくれる。
ウイークエンダーは足を黒い魔法炎にいれたまま。
これは珍しい状態だといえるかも。
ウイークエンダーの身長は50メートル。
七星の人型形態は20メートル。
「はい」
・・・・・・恥ずかしくなった私は、背中がわに手をついた。
川の水位が、上がってた。
待てよ、この水って。
『君のキャプチャーが塞き止めたんだよ。
早く水を流さないと、あふれでちゃう! 』
鷲矢 武志さんに慌てて言われた。
そうか。
さっきこん棒エンジェルスのせいで流れ込んだ海水は、大分流れきったと思う。
けど、このままじゃ二の舞だよ。
急がないと!
そう言えば、ここから海まで10キロメートルはあるんだ。
そこまで、こん棒エンジェルスのポルタはフラフラ飛んでいったんだ。
そんなドジにテンヤワンヤされたと思うと、余計イライラしてくる。
『お姉ちゃん、手を上げて! 』
言われた通り、両手を空に上げる。
そしたら、手をつかまれて、スゴく大きな力で持ち上げられた。
「みつき! 」
安菜が気づいた。
さしのべられた、白い大きな腕に。
ディメンション・フルムーンに引き上げられる。
「あんた、こん棒エンジェルスはどうしたの?! 」
そう、あのしがみついていた大群!
それが知りたい!
『なんとか、ちぎっては投げしてきた。
戦いは決した、というのかな? 』
振り向けば、七星くらいの大きさの黒い巨人が、倒れこんだまま山積みになっていた。
ディメンションがウイークエンダーを川辺におく。
大人が小さい子を運びあげるように。
「ありがと」
草が切り揃えられて、大きめの駐車場が整備された、河川敷の公園だよ。
見れば、2機の七星も背中にぶら下がっていた。
川の勢いは、ただ立ってるだけの七星を押し流すほどになったんだ。
「キャプチャーを消すよ。
その前に、警告ってだせますか? 」
『市が協力してくれるけど、時間かかるよ」
達美さんの言う通りだろう。
でも、おねがいします。
『キャプチャーと言っても、意味がわからないだろうね。
土砂くずれで川がふさがって、それをずらさないと町がしずむ。とつたえるよ』
そういう気の使い方もあるんだ。
「いきなりキャプチャーを消す選択肢はないでしょう。
おねがいします」
『・・・・・・よし、つたえた。
ところで、機体の方は良いの? 』
「火器はなくなりましたが、機体は大丈夫です。
だいぶ痛めつけられたはずなんですけど。
これがMCOの能力なんでしょうか」
ありがたいと思った。
だけどね、今まで無能力者のパイロットとして働いていた身としてはね。
今まで一緒だと思ってたパイロット仲間はそれなりにいる。
そんなみんなとの間に、壁とか格差ができるとか、変化が起こりそう。
それが、不安な気持ちにさせる。
いえ、今はそれどころじゃない。
ここは落ち着いてきたけど。
街は、まだ襲われてる最中なんだ。
「みつき、急速充電をおねがい! 」
背中のソケットを開くと、ディメンションの右手が差し込まれる。
バッテリーの電力が一気に満ちてきた。
でも、焦りがつのる。
目の前に広がるのは、住宅街。
そのなかに目立つ白いビル、病院だってあるんだよ。
ほっとけない。
「その心配は、すこしへりそう」
安菜が気づいた。
「ボルケーナ先輩が来てる。
上に! 」
空では、相変わらず巨人の上半身が
さ迷っている。
そのさらに上から、赤と白の巨影が雲を貫いて襲い掛かった。