66.やれない時は、やれることを
空を見上げた。
夜に近づくにつれて、灰色になってしまう。
雨は、まだ止まない。
『放送が始まるよ』
達美さんが言うと、街全体がサイレンに。
続けて同じ声に包まれた。
『こちらは、防災百万山市です。
ただいまの戦闘により、百万川が、土砂で塞がりました』
落ちついた声だ。
プロ根性を感じるね。
『これから、土砂を撤去します。
川の水が増えます。
川には、近づかないでください』
始めます。
『うん。どうぞ』
キャプチャーよ、消えなさい!
黒い炎が、上からゆっくり消えていく。
よかった。
街を巻き込まなくてすんだ。
ドーン
ひびきとともに、上空の雨が、真っ白な円錐形に切り裂かれる!
ドーンと、再びひびく衝撃波。
超音速で押しのけられた空気が、視界をゆらす。
白い円錐形は、ベイパーコーン。
音速に近い速度で飛行すると、先のほうが空気を圧縮する。
逆に、後ろのほうでは空気の圧力が下がる。
すると後ろのほうで空気中の水分がかたまって、雲になる。
海の上や、こんな雨の時に見れる現象だよ。
その先端に、赤と白ごチラリと見えた。
カメラに写ったのは、文字道理の瞬間。
それでも見間違えなかったのは、いつもより大きかったから。
ボルケーナ先輩は、膨れるんだ。
いつもの高さ1メートル、長さ2メートル。
そこから高さ20メートル、長さ40メートルまで。
いつもの体を膨らませてる限りはね。
この時、ポンポコリンのお腹は引っ込む。
スマートな姿になるの。
円錐形の先が、赤く光った。
神獣の口から、炎が飛んだんだよ。
一瞬で黒い巨人の全体が、赤く包まれた。
本来の炎では、絶対ありえない広がりかた。
巨人は、この時はじめて接近に気づいたらしい。
空中を、転げ回る。
それしか言いようがない。
先輩は、音速より早く近づいていたんだ。
音より早く近づくなら、巨人に近づく音が聞こえるわけがない。
「うわあああ!!! 」
巨人のパニックの叫びが、ようやく届いた。
左右に大きく揺すられる。
そのたびに叫びも引きずられ、甲高くなったり、低くこもるように聞こえる。
ドップラー効率が働くんだよ。
さっきまで私たちを打ち据えていた両手のムチ。
それで自分の体を打ち始めた。
炎を、はたき落とすつもりだ。
だけど、どんな仕掛けがあるのか、炎は消えない。
燃やされ続けて、キリモミながら落ちていく。
「まずいよ」
あせった安菜が身をのりだす。
「このままじゃ、どこに落ちるかわからない! 」
いいえ。
たぶん、ここに落ちると思う。
「みつき、カービンだして! 」
充電はすんだ。
『うん! 持ってきてるよ! 』
ディメンションの腕が外れて、今度は自分の背中にのびていく。
ダークギャラクシー無人偵察機をだしたのと、同じコンテナへ。
雨は先輩が暴れる度にかき回されてる。
もう、何をしてるのかわからない。
体当たりしたのか、しがみついてるのか。
わからないなら、別のことに集中しよう。
『はい』
みつきが、見るからに銃、な装備を渡してくれる。
「なんか、小さい銃じゃない? 」
不安そうに安菜が聴いた。
銃じゃないよ、砲だよ。
「155ミリメートル砲だから、さっきのコンテナよりでかくなってるよ。
撃てば40キロメートルは飛ぶ」
口径が2センチ以上だと砲なの。
でもたしかに、ウイークエンダーの体でスッポリ隠せるしかないサイズだから。
あれだけ戦ったあとの補給がこれじゃね。
砲身、弾が飛んでいくためのパイプはそんなに飛び出てない。
それでも、トラックにのせる大砲よりは長いんだ。
肩に当てて安定させるストックもついてるよ。
『それと、盾! 』
次に渡されたのは、奪われたコンテナの場所につけられた。
渡された盾は、これもあんまり大きくないね。
メインカメラのある頭部や、コクピットを守るのに最低限のサイズしかない。
背中から3本目として腕がささえ、いろんな方向へ盾をむけてくれる。
盾の裏には、カービンの予備の砲弾が納めてある。
「空挺ユニット、全身の駆動系は、出力が低下しています」
はーちゃんだ。
「ですが、起動に支障ありません」