愁傷 そして…….10
〔妖威を封じたものなら、守護がつく〕
〔すべてをおぎなえるほど、術士の数は足りてないようだが?〕
受け手の見識を問うような言いまわしだ。
守護者……管理者といえば、優秀な法印士・法印師がつくのが一般的で、事実、その数は足りてはいない。
それ未満の者や現役の神鎮めが担当している例もある。
引退した
すぐに駆けつけられるとも限らないので、おうおうに対策しておくものでもあったが、ここからさほど遠くないところには《転移法印》を持つ大きな街がある。
《転移法印》は、製作・運用・維持に必須となる資材・人材の都合から数そのものが限られているが、築かれたもともとの目的を
離れた場所にいても、ここで問題になるような異変が生ずれば、早々、駆けつけるはずなのだ。
《
来たくても来られない状況で遅れているのだとしても、そうならそうで、家の上層に処置を委託するなどの打つ手があるはずで……。
職務中の事故的な理由から、その通達さえままならない状況にないともかぎらないわけだが…――
いずれにせよ、こう後手を踏んだのでは、管理者の意味がない。
(
あれこれ思案していたセレグレーシュの目は、アントイーヴの方に流れた。
(彼だったりするのかな?)
法印使いの道を
高度な防御法印を身につけていて、妖威を封じようとしているのだから実力もあるのだろう。
すでに法印士なのかも知れないし、契約
いっしょに行動していたのだから、いま自分の背後にいる少年がパートナーである可能性だってあるのだ。
《絆》を結ばずに共にある……特例的な境地だったりするのかもしれない。
〔あの男の話では、ここの管理者は、すぐに動ける状態ではないそうだ。一連の騒動の経過・子細は、われの知るところでもない。そのへんは、この場所に君を導いた、そこの女に聞いたほうが早いのではないか?〕
いつのことか知らないし、自覚もなかった。
けれども、その彼女は自分が呼びこんだ者らしい。
——救いではなかった……〝この人さえ呼ばなければ〟…——
その
〔あの
〔君のいうことが事実なら、損害をうけたのはオレだ。オレが呼んだのなら彼女だって被害者だ。相手が悪いとはかぎらない。どうするかは、オレが決める……〕
親友のものとして認めたくない反応だったので、
ヴェルダには、もっと思いやりがあった。
きびしい面もあったが、おだやかで思量があって……。
たとえ、そう見越したとしても、言葉を選んで口にしたはずなのだ。
セレグレーシュの反応に
セレグレーシュは
〔君……、帰りたいのか?〕
〔……。……帰りたい場所なんて、ないわ〕
〔向こうに……。…もと居た闇に帰りたいんじゃないのか?〕
重ねて追及されたことで、思ってもいなかった場所を想定されていたことを理解した女
〔――帰ったって、しかたがないわ。メルがいないもの〕
〔メルって、だれ?〕
否定的に鼻を鳴らした彼女は、つかの
〔だけど……。帰りたいんだろう?〕
〔ごめんだわ〕
〔オレ……。時間かかるかもしれないけど、君がもどれる方法さがすから……〕
〔いまさら必要ない。よけいなことよ〕
〔帰りたいんじゃないのか? どちらにしろオレは、方法みつけるつもりだから。みつかったら、その時は、技を確実にして君を…。……オレに送り出されるのが嫌なら、ほかの誰かを通して――〕
〔いいって言ってるじゃない。あなたには、なにも望んでない!〕
セレグレーシュは、なんだこいつは……と、ばかりに。その人を見すえた。
いきおいや
成せるか不明ななかにもそれは、彼女のことを考えてひねりだした提案なのだ。
それなら何故? と不平を覚えずにはいられない。
セレグレーシュとしては、彼女が自分に手をあげた理由に彼なりの解釈をつけ、理解しているつもりでいた。
望んでいない彼女をこっちに呼んでしまった事実に
その
認めたくなくても実情がそうで――…
それでも、その人のこの行動の根底にあるもの。本懐は、もといた場所にもどる事なのだろうと思ったから。
許してもらおうとかいうのではなく、それで妥協してくれたらと考えた。
招いてしまったのなら、それはもう変えようもない過去の現実だから、せめて、その望みを叶えるための努力を提起して、約束しようとした。
べつに仲よくしてほしいというのではない。
むろん、険悪であるよりは和解できる方がよかったが、いま求めているのはそれではなく……。
これは望まぬ彼女をこちらへ招いてしまったことへの
〔なにも望んでないなら、どーして関わってきたんだよ。なにもないなら、かまう必要ないじゃないか。どうにかしたいこと、あったんじゃないのか? オレを…――。消したかった……だけなのか?〕
たとえそうだったのだとしても、そうは思いたくなかったし、その事実に表現しようもない理不尽を覚えた。
幼いうちに、わが身以外のすべてを無くすような経験をしている彼が、
いまはその人を相手に話しているが、セレグレーシュは彼女個人を見て言っているのではなかった。
そこには闇人をひとまとめに考え、帰せるなら帰したい……もとの平穏な状態に戻したいという思い――自身の間違いを正したいという強い自責の念と目的意識があった。
そしてさらには、自分が
どうにもならない現実を前にあがいて導きだした妥協案――それも許されないのだとしたら、自分はどうしたらいいのだと……。
それに対し、女
セレグレーシュは暗がりのなかで