旨意錯綜.1
幾何学的な異物——《法印》は、深い森林の中にぽつんと場を占めていた。
その中央には、周辺の森の木々とおなじくらいの高さを備えた
そのつるつるに磨かれた黒御影石の
地面に敷かれた扇状のそれは、構成に
前後左右を決めて造られたものではなさそうなそれは、スカウオーレス地方、最大の自治都市スカウオレジャの市長が、古くからあった円形の平地にすえ置いて、《森の鎮守》としたもので……。
数百年前。
見るからに
それでもいくらか人里から離れた森の奥深いところにひっそり置かれていたので、誰もが
噂になったのも、かなりむかしのこと。
いまとなっては、それと知るのは、近隣の住人のうち《
あとはその技能を専門とする有識者くらいのものとなっていた。
存在を封じる種類の法印の情報は、その技術の大本である《法の家》が
いっかいの生徒にすぎないセレグレーシュの耳にも届いてはいなかった。
むろん、訪れたのもこれがはじめだったが、それでも。
セレグレーシュは、ひと目でその本質を看破した。
彼には、感じとれたのだ。
これは何者かが内部に
それが秘めている情報量の多さに細々とした
複数の法具が幾何学的にかみあい、ひとつになった亜空の構造物——《法印》は、盗人が目の色を変えて噂する資材の宝庫である。
通常の空間からはなにも存在しないようでありながら、そこには一般の人類が宝石として珍重する美麗な鉱物や《
繊維、
その精工さは、セレグレーシュが
多様な形質の法具を基礎として法印構成が幾千と組まれ、たがいに影響しあうことで
(〝あけっぴろげ〟というか、
存在が封じられている法印は家にいくらでもあったが、公的な権限を持たぬ者が干渉することは禁じられている。
不用意に触れると、それを察した管理者に怒られる。程度によっては処罰もされるので、正道を行きたいなら、できるのは
だがこれは、触れてもいいのだ。
ほかの誰かのために用意された課題なのかもしれない…――そんな懸念が消え去らない中にも、その構成を目の前にしたセレグレーシュの表情は、欲しがっていたおもちゃを与えられた子供のように輝いた。
素材で分類される《法印使い》、基本の七つ道具は――
《
準ずるものとして、氷や雪、結晶なども……。
《
いずれにせよ、純度・濃度の高いものがこれとされ、ある種の
《
《
《
世俗的な観点から、宝石類は人の手による合成であってもこれにふくむ。
……このへんは形状が球や楕円に限らず多様なので、分類・材質を異にするその他・外観が幾何学的な整いの法具(単体のものも合体構造のものも)もろともひっくるめて《モデル》や《フォーム》とも呼ばれる。
《岩石類》――主に宝石以外ともされるが、
そして、炎や光線、音波や電子など――波動に属し《
中間に位置するとされるもの――
真珠や琥珀、オパールや瑪瑙、
墨、霧、煙、泡、ミルク、アスファルトなどの
原油・《
ハロゲン、レアメタル、
さらには、状態や性質、素材、形から感覚的に分類されがちな、多方面に
《神鎮め》や《法印士》は、それら《
現存する法具の種類の四割から五割ほどは、製作者の探求心と欲念、遊び心から生まれた品で、
いま、セレグレーシュが持ちあわせているのは、基本中の基本ともいえる二一品目だ。
物理的に見えない亜空に秘められた構造を明らかにするための《
そして、見たい部分にもよる。
対象をしぼり、部分的に対応するなら、土と石には《
植物には《
合金には《
たいていの法印構成に混ざりこむ《空(大気・空間)》に対応するのは、特定の光をはなつ法具と《
肉眼で見えるよう《
道具(主に法具)を
道具の持ちあわせが気になっていても、できるだけ見えるようにしてから、解く方法を
法印には、仕上がりが固いものと柔らかいもの、そして、両方の性質がブレンドされた中間のものがある。
それは、どれがどれに
数百年前の故事とともに、その代表例として語られるだけあって、この封印は、とても
(…――石や土に対応する《
この地面には、金と銀の混合……いや、苔はのってるだけみたいだから関係ないか。でも、なにか植物対策ある感じだから、間違いではないと思うけど――。
……起伏や過剰・不足を望む状態に
最終的に
できるだけ個別に……自立させて発動しないと……。
……これ。ぜったい材料、足りなくなる!)
——時は経過して、滞在二日目。
セレグレーシュは、封印が組みこまれている地面や石碑のまわりをぐるぐる行き来しながら、その性質・特徴を読み、理解しようととり組んでいた。
(
どこから手をつけるんだろう? うー……ん)
ようすを見ていた女
〔いつになったら、始めるの?〕
〔ん…。今日のうちに水
〔昨日もおなじようなこと言ってなかった? 始めなさいよ〕
〔これだけ大きいと慎重にもなるよ。材料に限りがあるから失敗したら、やりなおしがきかない〕
〔……。おなかが
セレグレーシュは、君の腹のていどまで知るかとでも言いたげに女
〔
〔自分でなんとかしろよ。馬で飛ばせば、半日もなく戻れるだろ。
〔わたしだけでは馬が進んでくれないもの〕
(そりゃぁ
あきれかえりながら連れのあつかいを持てあましたセレグレーシュは、次の行動を迷って、苔むした地面に視線を落とした。
こんなところに
そういったものは、人の居住区に行かなければ手に入らない。
〔あなただって、おなか
〔オレは、
セレグレーシュが、なにげなしに相手に視線をやると、そこには困りはてている白い横顔があった。
円形の平地のはし。法印構成の外。森のはじまりのあたりに置いてある、彼らの荷物を見ているようだ。
〔いまから行っても
セレグレーシュは、ふいっと顔を
▽▽ 場 外 ▽▽
ここで道具として指摘した《エーテル》は、第五元素や神秘要素のエーテル