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無理難題.3


 琥珀色だった少年の瞳が、黒くつややかなひらめきをみせた。

「中の道は、どこに出るものだった?」

 正午前。
 その問いは、ほどなく次の人里に差しかかろうかという頃になされた。

 道中、急ぐなかにも、移動手段(~足~)となってくれている馬に無理を()いないよう、適度な休憩を入れながら速度を落としたり、()かすことを繰りかえしていて――
 その発言がなされた時、アントイーヴは手綱を手に中腰になっていた。

 中途半端な姿勢で、うしろに乗っている少年を意識する。

「中の道?」

「東に違いないが、もっと南だ」

 思案がちに断言する少年の双眸は、すでに発色を変え、琥珀色にしずんでいる。

「彼がどこにいるか、わかったの?」

「しかと捕捉したわけではないが南だ」

 人里の兆しとなる建物(小屋)()く手に見えていたが、彼らを乗せた黒い駿馬はまだ、左右に木立が連続する森の道を走っている。

 アントイーヴの指示で馬の速度がじょじょにおちていた。

「今朝の宿場で一本、右の道ってことかい?」

「過程はわからない。ここを通ってないとも言えない」

「ここからは、南?」

「もっと先だ。東と言っていい」

「――そう。……なら、このまま進むよ。
 ここまで来てしまったのだし、こっちは北上して歯車職人の街を経由するけど、そこから南に進路をとれば、中の道とおなじ街に出る。スカウオレジャの北側にね。
 要する時間は、さして変わらない。馬を返すよりは情報集めながら(スカウオレジャの)街の中を縦断しよう。
 違っても、情報に出会いそうな方面に方向修正すればいいのだし。それでいいかな?」

迂遠(うえん)だな」

「ここから南に外れても、ショートカットにはならないよ。方位は読めるから、本格的に迷うとは思わないけど、右往左往して、よけいに時間をロスする。
 地形から考えても、(こいつ)を連れて無事ぬけられるとは限らない。賢い選択じゃない」

 深そうな森の起伏の連続で、さして険しいようには見えなくても、ここから南の方角には(ひら)かれた道がないのだ。

 道案内できる者を得られたとしても、これまでのようにスムーズには進めない。

 アントイーヴがそれと指摘した通りで、少しくらい遠回りになろうと、引き返したり未開の森へ踏み込むような無謀を働くよりは合理的で安全な選択。判断といえた。
 いま(こな)しているこの行程も無駄にはならないので、心理的にも鬱屈(うっくつ)が軽減される提案である。

 もとより、こっちで手がかりを掴めなかった時には、その方面へまわる(そうする)案が、その男、アントイーヴの頭にはあったのかもしれない。

 指標との間に横たわる距離を意識した稜威祇(いつぎ)の少年は、しばし、気鬱そうに口を閉ざした。
 溜息をつくともなく、あきらめがちに連れの意見に同意をしめす。

「この(みち)を行こう」

「うん。じゃぁ、この()にも、もう少し頑張ってもらおう」

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