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第18話 運命の別れ道

 雨など降る気配もない、晴天の日の朝。
 ムナール達は、彼らが働く街の小さな学習塾の裏庭にて、隊列を組んでいた。

 ムナールの所属する、とある組織。
 表向きはこの街の小さな学習塾を運営する会社であるが、彼らの本業は、リプカのような精霊憑きを保護する保護団体である。

 一般的には災厄を呼ぶとして、忌み嫌われている精霊憑き。
 しかしその一方で、その考えはおかしいのではないかと不審に思う人間も僅かながらに存在する。

 そして、その僅かな人間の内、ムナールの父親が同じような考えを持つ者やその家族を内密に集めて立ち上げた会社が、この保護団体なのだ……とは言っても、その活動はあまり上手くはいっておらず、その支部はここオールランドと、本州にもう一つあるだけで、保護出来ている精霊憑きも、火と水の二人だけなのだが。

 話は若干逸れてしまったが、災厄を呼ぶ精霊憑きを保護し、他の人間と共存させようなどと考える人間も、当然白い目で睨まれ、迫害される傾向にある。
 だからムナール達のような組織も表立っては行動出来ないし、そういった組織に所属していない者達だって、「おかしい」と断言するような事は出来ない。
 そのため、ムナール達はこうしてリプカが他の人間と共存出来るようにサポートしながら学習塾を運営する事によって、秘密裏に活動しているのである。

 しかしそんな彼らには、実はもう一つの顔がある。
 それが、通称何でも屋こと、ギルド『カンパニュラ』である。
 そして、今日の仕事は学習塾でも保護団体でもなく、ギルドとしての仕事、魔物の異変調査なのであった。

 因みに何故ムナール達の組織がギルドも運営しているのかと言うと、ただ単に「血の気の多いヤツが多いので、魔物退治に向いているヤツが多いから」という理由だけである。

「近頃、北、南、西にある森のA地点に、D地点に生息する魔物が目撃されている事は知っているな? これを魔物の異変と捉え、本日はギルド『カンパニュラ』に所属する者全員で早急に調査、及び対策を行う。これより部隊を四班に分け、東西南北にある森、そのA地点に向かう。A地点とは言え、D地点の魔物が確認されているため、各自慎重に行動するように」

 と、ムナールの父親でありカンパニュラの代表であるドゥクスの挨拶から始まり、四班にチーム分けがされ、それぞれが東西南北何れかの森へと向かう。

 D地点に生息する、超凶悪な魔物達。それが最近、比較的安全なA地点で目撃されていると言う。
 その上、凶悪な魔物達は人間を見るや否や襲い掛かって来るのが通常なのだが、その魔物達は人間の存在などまるで気にしないと言わんばかりに、こちらを見ても全く興味を示さなかったらしい。
 これは今までにはない現象。早急に調査が必要だ。
 西、南、北でこのような現象が起きている事から、東区でもおそらく同じような現象が起きているのだろう。
 そう予測された事から、東区ではA地点でD地点の魔物の姿は確認されていないが、本日、他の地点と同じようにして、魔物の調査を行う事になったのだ。

 ムナールが担当するのはその東区A地点。
 班員はリーダーである父親ことドゥクスを始め、レイラとタウィザー、そしてレイラの父親であるシュタルクである。

「父上と同じ班だなんて最悪です。異議を申し立てます」
「ドゥクス、最近娘が冷たい」
「離れろ、シュタルク。鬱陶しい」

 白い胴着の上からでも分かる程に分厚い胸筋と、一体どれくらい鍛えたらそうなるのか分からないくらいにムッキムキな上腕二頭筋と三頭筋を持つ、ガチムチ中年男ことシュタルク。
 そんな男が自分のマントの裾を掴み、シクシクと泣いている。
 これを鬱陶しいと言わずして何と言おうか。

「レイラも、班分けに関しての異議は受け付けん。力が均等となるようにと分けたチーム編成だ。つべこべ言わず従うように」
(相変わらず冗談の通じない、頭ガチムチ男ですね。これでどうやったらムナールさんのような、ちゃらんぼらんな子供に育つのでしょうか)
(父さん、母さんの前じゃデレデレのふにゃふにゃなんだよ。そんな情けない姿見せられたら、嫌でもこうなるよ)
(な、なっ、レイラ。ドゥクスに比べたら、まだパパの方がマシだろ? な!?)
(さ、三人とも止めて下さい、リーダーこっち睨んでますよっ)
「貴様ら、全部聞こえているからな」

 これから凶悪な魔物の調査に向かうと言うのに。何故揃いも揃ってこんなに緊張感がないのだろうか。

(そろそろムナールに代表の座を引き継がせ、私はさっさと引退したいと言うのに。これでは引き継ぐまでに後何年掛かるのやら……)

 はあ、とドゥクスは深い溜め息を吐く。

 と、その時であった。
 ドゥクスの目に、息子と仲の良い黒髪の少女の姿が目に入ったのは。

「あれは……リプカではないか?」
「え? リプカちゃん?」

 その言葉に、ムナールはふと顔を上げる。

 ドゥクスが示す先。
 そこに視線を向ければ、建物の陰に身を隠しながらコソコソと何かをしているリプカの姿があった。

「あ、本当だ、リプカちゃんだ」
「何をしているのでしょうか?」

 同じように顔を上げたタウィザーとレイラもまた、不審な動きをしているリプカに、不思議そうに首を傾げる。

 リプカはと言うと、ムナール達の存在には気付いていないらしく、建物の陰に身を隠し、前方の様子を窺いながらコソコソと前進している。
 どうやら何かの後を付けているようなのだが……一体何を追っているのだろうか。

「もしかしてカルト君の後でも追っているのかな?」
「カルト? ああ、最近様子がおかしいと言う、あの小童か?」
「うん、カルト君の豹変は僕も気になっているんだけど……。リプカちゃん、何か掴んだのかな?」

 リプカが本当に誰かの後を付けているのかも、その相手がカルトかどうかも分からない。
 しかしリプカの目的が何にせよ、彼女の事だ、後先考えずに無茶な行動をし兼ねない。

 このまま危険な事……否、面倒臭い事にならなければ良いのだが。

「魔物の異変と小童の異変……異変が生じた時期が同じ頃と言うのは気になるな。魔物の件とも、何か関わっているかもしれん。ムナール、お前はリプカと合流し、そのカルトとやらの後を追え」
「え、いいの!?」

 まさかの指示に、ムナールはキョトンと目を丸くする。

 カルトの豹変はムナールも気になっていたところであったし、何よりもリプカの事が心配であった。
 今日はドゥクスの指示があったからカンパニュラの一員として、ギルドの仕事をしていが、正直なところムナールとしては、カンパニュラとしての仕事よりも、カルトの豹変の方を優先したかったのだ。
 
 そしてその思いを知ってか知らずか、リーダーであるドゥクスから、カルトの豹変の方へ行けとの指示が出た。

 これは速攻で頷く他、選択肢はないだろう。

「良かったね、ムナール君。キミ、リプカちゃんの事ずっと心配していたもんね」
「良かったですね、ムナールさん! ドゥクスさんにも人の心があって!」
「息子を思い遣る心があるとは! お前も成長したなぁ、ドゥクス!」
「まさかガチムチ筋肉脳の父さんから、そんな柔軟な指示が出されるなんて……。ありがとう、父さん。必ずやカルト君の豹変の原因を突き止めて来るよ!」
「貴様ら、後で覚えていろよ」

 コイツらは自分の事を一体何だと思っているのか。
 
 とにかく全部終わったら、タウィザー以外には大量の書類整理を押し付けてやろう、とドゥクスは心に誓った。

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