270 長老の家へと向かう、道中にて
ラクトはサーシャと世話役の召し使い、また、ニナを連れて、長老の家へと向かっていた。
砂漠寄りの大通りを抜け、石造りの家が並ぶ住宅街の間を歩いてゆく。
「わぁ~」
「岩石の村の家屋と、やっぱりぜんぜん違いますわね~」
後ろを歩くニナと召し使いが、物珍しそうに周りを見渡している。
「あら、キレイなお方」
「ホントね」
「どこかの国のお嬢さまかしら?」
「たしか、昨日どこかの……」
婦人2人が一行とすれ違い、サーシャを見て囁き合いながら歩いてゆく。
片方の婦人は緑色の、光沢のある生地の服と、腰下がふわりとしたスカートを履いていて、もう片方の婦人は、華やかな植物模様のする肩掛けを身にまとっていた。
「……ここの村の人たち、みんな、着てる服が変わってるね~」
「ええ。岩石の村とはまた違った華やかさがありますわね」
ニナと召し使いは振り向いて、婦人達の後ろ姿を見ながら言った。
「ウチは異国出身者が多いからな。いろんな国や村の服が入ってくるんだよ」
ラクトが振り向いて、2人に言った。
「へぇ~」
「ちょっと、あとでお服屋さん、寄りたいかもですわね……」
召し使いが、ボソリとつぶやいた。
と、家屋と家屋の間から、子供達が複数人、飛び出してきた。
「わ~い!」
「ねえ!今日、なにして遊ぶの?」
無邪気に走りながら、子供達が言い合っている。
「もちろん、箱船でかくれんぼ!」
「わ~い!」
「箱船!箱船!」
「いこいこ~!」
子供達は道を横切って、再び家屋と家屋の間を通りすぎていった。
「……」
サーシャの歩幅が短くなって、横を歩いていたラクトが前に出た。
「……ん?」
ラクトは振り向いた。
いつの間にか、サーシャは歩くのを止めて、建物と建物の間、子供達の通りすぎていったほうを見つめていた。
「おい、どうした?」
「……いま、あの子達が言ってた、箱船って?」
「ああ、その事か」
ラクトはサーシャに言った。
「すっげぇ、でっかい船だ。前に、ウームー地方っていうところから、この村の一番の商隊が帰還したときに、たくさんの交易品と、たくさんのキャラバンを乗せて、空を泳ぎながら帰ってきた」
「空を、泳ぎながら?」
「ああ。だけど、今はそれができないって話で、とりあえず、その建物の先にある空き地に、箱船を置いている状態なんだよ」
「そう」
「そしたら、いつの間にか、子供らの遊び場と化してしまってな、はは」
「……」
するとサーシャは、す~っと、その子供達が通りすぎていった、家屋と家屋の間に入っていった。
「あっ、ちょ!えっ?おいおい、どこ行くの?」
ラクト、また、ニナと召し使いも、サーシャに続いて、家屋と家屋の間に入っていった。