239 社会形成
「物語?」
「そう。物語を共有するっていう、力だよ」
「いや、ちょっと待て」
ラクトは、ミトの言うことに関して、途中から違和感を持っていた。
「さっきから言ってることって、強さと関係なくね?」
どうしても、これまでの話の中で、ラクトの中で強さと直結するような部分が見当たらず、そのため、別の話をしているような感覚になっていた。
「そうだよね。いまのところ、戦って勝てるとか、そういうのじゃないからね」
ミトは苦笑した。
「マナトって、いろんなことを知っているよね」
「まあな」
「強さについても、いろいろ、知ってたんだ」
「いろいろ?」
「ラクトとか、僕らの言っているのって、単に力の強さなんだよね。マナトの言っているのは、社会形成が強いってことなんだ」
「社会形成?」
「社会を構築できるようになったのが、人間と他の動物との大きな違いなんだって」
話しているところへ、店員がやって来た。
「はい、お待たせ。召し上がれ~」
ラクト、ミト、ステラの前に、ナンと、ナンにつけるための赤や緑、黄色のスープ風のソースなどが並ぶ。
「いただきま~す!」
3人は食事を始めた。安定の美味しさだ。
「マナトのいた世界では、自分達人間のことを、ホモ=サピエンス、つまり、賢い人だって、言ってたそうだよ」
食事をしながら、ミトが言った。
「ムグムグ……ふ~ん、なかなか傲慢だな」
「あはは、確かに」
ミトが、ナンに手をのばし、緑のソースにつけた。
「ムグムグ……マナトが、自分自身がそうだって、よく言ってるけど、人間は弱い」
「おう。まあ、オレは強いけど」
「まあね。でも、ラクトのような強さを持った人間のほうが、珍しい」
「まあな」
「それでも、生き残れる数が、人間は圧倒的に多い」
「ほうほう……ムグ」
「人間は弱い。その代わりに、つくり出す社会が強いんだ。さっき言った認知革命によって、皆で目的や目標を共有し、協力し合うことで、巨大な社会を形成することができる」
「さっき言ってた、村と国ってことか」
「そうだよ」
すると、ミトはナンを2つ、小さくちぎって、黄色いスープの中に、ポチャンと浮かべた。
「そして、それは、交易のときも、一緒なんだよ」
そして、その浮かべたナンを、指差した。
「これ、キャラバンの村ね。それでこっちは、サライ。サライと聞けば、一時的に休むことができる。そういうのを理解できて、覚えることができる。そして、この広大な砂漠を行き来し、交易を行うことができるようになった」
「まあ、さすがに危険も多いけどな……ムグ」
「加えて、交易に行ったとき、サライの中で、キャラバン同士、獰猛種の生物やジンの出現場所とかを、さまざまに情報交換したりする。また、目的地が一緒なら、共行したり……そうやって、協力し合う」
ミトは、ソースにつけたナンをつまみ上げて、食べた。
「見ず知らずの相手にも関わらず、キャラバンというだけで協力し合える。これ、認知革命の賜物なんだって」