240 長老の花壇
食事後。
「それじゃ、ラクト、ステラさん」
ミトはこの後市場に寄って買い物をして、農作業に戻るということで、市場のほうへと行ってしまった。
「……んっ?」
別に示し合わせている訳じゃなかったが、ラクトとステラは、一緒の方向へと向かって歩き出していた。
2人して、中央広場を抜けて、砂漠寄りの方面へと向かう。
「おい、ステラ?」
「……ウフフ」
肩一つ分前を歩くステラに声をかけたが、ポワ~ンとしていて、時折り、なにか思い出したように笑っている。
「どこに行こうとしてるんだ?」
「……えっ?」
しばらくして、ようやくステラはラクトに反応した。
「なに?」
「いや、だから……」
「そういやラクト、どこに行こうとしてるの?」
逆質問された。
「お前なぁ……」
「えっ?なに?」
「……もう、なんでもいいや。マナトのとこだよ」
「そっか。あなた達、仲いいわね」
「普通だな、今は」
「えっ?」
「さっきの食事、明らかにお前、変だったぞ」
「えっ!?いや……べ、別に、なんでも」
そんなことを話しながら、しばらく歩くと、長老の家が見えてきた。
長老の家の玄関に、ステラが入ってゆく。
「あっ、目的地、長老の家だったのかよ」
「うん。あれ?言ってなかったっけ?」
「……」
「それじゃあ、午後の仕事、始めるわよ!」
気合いを入れ直した様子で言うと、ステラは長老の家に入っていった。
「……んっ?」
長老の家は、他の家と造りは他のこのあたりの住居と似たような石造りのものだが、他の家よりも比較的大きく、増築もしていた。
その増築された家屋の手前が少し空いていて、そこに、これまで見たことのなかった花壇がつくられていた。
花壇には植物が植えられていた。背の低い、葉数の多い緑の葉っぱで、花はついていない。
「フンフン、フ~ン」
そこで、長老がじょうろを持って、ご機嫌な様子で、その植物に水をやっていた。
「長老~」
ラクトは声をかけた。
「んっ?おう、ラクトか」
「そんな花壇、ありましたっけ?」
「うむ。ちょっと前につくったんじゃ」
「なに、栽培してるんすか?」
「これか?これは、ラハム地方にある葉っぱじゃ」
「あっ、あの時の、湖の村との交易品か」
ラクトもかつて交易に参加していた、湖の村でのラクダとの交易で得た、ラハムの地にあるという薬草を、長老は栽培していた。
「それ、なんか薬草かなんかになるんでしたっけ?」
「そうじゃ。クルール地方にない、珍しい薬草でな」
「へぇ」
「とりあえず、わしの花壇で栽培してみておる。その上で、薬草としていろいろ加工、調合させてみて……」
――ピュァアア!
長老が話していると、伝書鳥のルフが上空で鳴いた。
「おっ、ルフが帰ってきたか」