235 会食、その裏で
宮殿内、召し使いや執事達によって、先まで行われていた論功行賞に使用された、ステージの台座や舞台道具が片付けらた。
代わりに、丸いテーブルがいくつも置かれ、また、その上に豪華な料理と酒が並べられる。
別室へと姿を消していた、公爵達が戻ってきた。
「ちょうど、準備は終わったところかね」
「では、始めますかな」
公爵達がそれぞれ丸テーブルに散る。諸外国の有識者達も自由にテーブルを囲み、自然な形で、会食は始まった。
「俺たちも食おうぜ!」
オルハンが言った。
論功行賞の対象者も参加していて、フェンのサロンメンバーは余っていたテーブルを占拠して、食事を始めた。
「あなたたちが、ワイルドグリフィンを撃退に追い込んだという、キャラバン達ね」
「いやぁ、強いんだねぇ」
どこか他国の有識者と思われる、金色の美しい長い髪をした女と、髭面のダンディーな声のする男が、話しかけてきた。
「あっ、どうも」
フェンが対応する。
「どうやら、グリフィンは急に街中に現れたそうだね」
「ええ、そうなんですよ」
「飼っていたグリフィンが、野生化したとか?」
「あっ、いえ、メロの国に、そもそもグリフィンは……」
フェンと男は会話をはじめた。時おり、女もその会話に混じっている。
他のサロンメンバーは、気にせず食べ続けていた。
「あれ?そういや、ウテナいなくない?」
ライラは周りを見渡しながら言った。
「どこかにいるだろ。てか、それ言うならフィオナもいねえぞ、モグモグ」
食べながら、オルハンは言った。
オルハンの私服姿も、今はもう馴染んでしまって、気にする者はいなかった。
「まあ、ウテナ、今回の主役だからね~。みんなに話しかけられてるのかな。フィオナはきっと、化粧直しね」
※ ※ ※
宮殿内、2階へと続く、あまり使われることのない、らせん階段の踊り場に、ウテナとフィオナは、呼び出されていた。
そこにいたのは、ルナと、父親のムスタファ公爵。
ルナの口から、ジンの事が語られた。
「まさか、ジンに遭遇してたなんて……」
「ごめんね、ウテナ。でも、公爵会議が終わるまでは、誰とも会ってはいけないって、言われてて、ウテナとも、どうしても会えなかったの……」
「仕方ないわよ……」
フィオナが言った。
「国の一大事だもの。しかも、アクス王国のときのような、国外での出来事とまるで違う。国内にすでに潜伏してしまっている状況だったなんて……」
「はい……」
「でも、ルナ、ジンに危害は加えられていないって、ことね?」
「はい。まだ潜伏期間なのだろうと。それで……」
「私が話そう」
ルナの父親、ムスタファ公爵は、公爵会議で決定した今後の動きについて2人に話した。
「ルナが所属する商隊である以上、君たちには言っておかなければならなかった。くれぐれも、他言無用でお願いしたい」
ムスタファ公爵の言葉に、ウテナもフィオナも、うなずいた。
「では、私はこれで」
ムスタファ公爵は、階段を降りて、会食へと戻っていった。
「……大丈夫よ、ルナ」
ウテナが、ルナをそっと、その細くなった身体を、優しく抱き締めた。
「ウテナ……」
「あたしね、決意したの。ルナも、フィオナさんも、守るってね」
(メロ共和国のいま 終わり)