236 ラクト、大衆酒場の大扉にて
キャラバンの村の中央広場、いつもの大衆酒場の大扉の前で、ラクトは立っていた。
お昼時。酒場の中では昼食を取っている者達で賑わっているが、大扉の前で足を止める者はおらず、ラクトは一人でリストを眺めていた。
すると、ステラがやって来た。手には、新しい交易のリストが持たれていた。
「あら、ラクトじゃない。今日もいるのね」
「んっ?ああ」
いつもの作業着姿のステラは、新しいリストを、いつものようにせっせと大扉へ貼り出した。
「……」
リストが貼られる度、そのリストをラクトは凝視していた。
「どうしたの?どこか、行きたい国でも、あるの?」
ステラがラクトに言った。
「ん~、ちょっとな」
ラクトは、見るだけで、リストを取ろうとはしていない。
「変なの。……よし!今日はこれで終わり!」
「あっ、終わり?」
「ええ、そうよ。長かったラクダの交易も、いよいよ、終わりが見えてきたわね!」
「ああ、そうだな」
……今日も、まだのようだなぁ。
ラクトは思った。
マナトから聞いたのだ。
マナトはケントと共に長老に呼ばれ、メロ共和国について知っていることを話したとのことだった。
知っていることといっても、フィオナ商隊についてくらいだから、大して参考になっていないと思うけど、とも言っていたが。
そして、長老が、こう言っていたという。
メロ共和国との、そこそこ大きな交易が、近いうちに行われるかもしれない、と。
「ん~!」
ステラが背伸びした。
「お昼ごはん食べよっかな~。ラクト、食べた?」
「いや、まだ」
「それじゃ、一緒に食べる?」
「ああ。そのうちミトも来るから、合流していいか?」
「えっ!?み、ミトくん、来るの!?」
「おっ、おう」
ステラは明らかに動揺し出した。
「とりあえず、広場沿いのどっか、入るか」
「あっ、え、え~と、そうね!」
ラクトとステラは飲食できる店を探した。が、お昼のため、どこの店も少し混み気味だ。
「ん~、ちょっと、タイミングが遅れたか」
「そそ、そ、そうね!」
……なんだ、コイツ?
ラクトは、明らかに心ここに在らず状態のステラが気になった。
「ラクト~!」
ラクトがそう思った時に、ミトの声がした。
「あっ、ステラさん、こんにちは!」
「はわわ……ミトくん……!」
ミトがやって来た。いつもの黒インナーに、新調したのか、青とオレンジ2色のグラデーション鮮やかな肩掛けと腰巻きをしていた。
「よう、ミト」
「ラクト、どうだった?リスト」
「いや、まだだ」
「そっか。もう少し、かかるのかな?」
「う~ん、分からねえ」
ミトにも、メロの国との交易の噂はすでに話していた。
「とりあえず、ごはんにする?」
「そうだな。ステラも一緒でもいいか?」
「もちろん!」
「でも、どこも席空いてないんだよな~」
――ガタ、ガタッ。
話していると、ちょうど、目の前の店でテーブル席が空いたのが見えた。
「空いたな!」
「あそこにしようか!」
「は、はい!」
3人は、空いたテーブルに滑り込んだ。