237 人類の強さ
ラクトの隣にステラが座り、テーブルを挟んで、ステラの向かいにミトが座った。
座った3人のもとに店員がやってきて、それぞれの注文を聞いてゆく。
店員が、奥の厨房へと消えていった。
待っている間、ラクトはミトとステラを見ていた。
「……」
「……」
2人とも、無言になっている。
普段、そんなに自分から積極的に、ミトはしゃべらないタイプだった。言うなれば、いつも通り。
……やっぱり、ずいぶんと、そわそわしてるよな。
逆に、ステラのほうは落ち着きがなく、頬も紅潮していて、その上で、無口という状況で、明らかに変だった。
……あっ、分かった。
ステラの原因に気づいたラクトは、ステラの耳元で、ミトに聞こえないような小さい声で言った。
「おいステラ、トイレ行きたきゃ、行ってこいよ……」
「……はっ?」
――グリっ。
「ぅぐっ!?」
テーブルの下、ステラのかかとが思いっきり、ラクトの足を踏んづけていた。
「どうしたの?ラクト」
「イテテ……い、いや……何でも、ははっ……」
……ぜ、善意で言った、だけなのに……。
「……あっ、そういえば」
ミトが、なにか思い出した様子で、主にラクトに向けて話し始めた。
「ラクト、この前さ、たしか、岩石の村へのラピス運搬依頼のときだったと思うんだけど、鉱山の村までの道中で話してたこと、覚えてる?」
「んっ?なんだっけ」
「あれだよ、ラクト見せてくれたじゃない。ええと、生態ピラミッド」
「あぁ!あれか。デザートランスコーピオンが、どの位置にあるかってヤツね」
ラクトが言うと、ミトは、そうそう、と首を縦に振った。
「気になって、この前、マナトに聞いてみたんだよ」
「ああ。人間とデザートランスコーピオン、どっちが強いか弱いかってヤツを?」
「そうそう!」
「あん時、訓練してるから勝てるとか、本来は勝てないとか、そんな感じでオレもミトも途中から意味がわからなくなってたんだよな」
ラクトは苦笑しながら言った。
「でも、あれか?明確に、どっちが強いって、マナトは言ってたのか?」
「うん」
「マジ」
ラクトは興味が沸いてきた。
「それで、どっちが強いんだ?」
「人間、だって」
「あっ、マジで」
「単純に強さと弱さが、それがそのまま生態ピラミッドに反映されてる、というわけじゃないみたいなんだよね」
「へぇ」
「人間はむしろ、訓練をしていない者が丸腰で戦ったら、デザートランスコーピオンにはぜったいに勝てないというのは、マナトも同じ意見だった」
「それはそうだよな」
「でも他の動物よりも、明らかにが優れている部分が、人間にはあるって、言ってた」
「ほうほう!それは?」
「人間は、認知革命を経た動物だから、だって」
「……うん?」
……マナトめ、また分かりにくい言葉を出してきやがって。