38.第10回百万山&太刀山防災総合訓練及び MCO協力者合同訓練
そういえば、ボルケーナ先輩がだれかを悪く言うのって、珍しいかったな。
あのお人好しが。
そういえば、が出ちゃったな。
・・・・・・今、この状況はイヤなことなのかな。
たしかに、「やって来ました! 百万山!」、みたいな高揚感はない。
あるのは、緊張と、怖さと・・・・・・。
灰色のパイロットスーツに、汗の匂いがこもってる。
・・・・・・あの会議から3週間。
臨時 暗号世界&MCO国際会議の頃から、変わってないや。
これからも変わらないのかな。
それは、ヤだな。
『降下、3分前』
機長、お父さんの声だ。
今の私の視界には、ヘルメットにのったモニターが写す、金属の床。
今私は、ウイークエンダー・ラビットに乗って、プロウォカトルが誇る巨大輸送機、雷切で運ばれている。
時間だ。
おまじない。
「祈りを捧げます。
天にまします我らの父よ。
願わくば御名をあがめさせたまえ。
御国を来たせ給え。
御心の天なる如く、地にもなさせたまえ。
また、この防災関係者とMCO関係者たちが無事、職務を全うすることを導きたまえ。
良きことをするための力と知恵と勇気を授けたまえ。
この日の終わりにはあなたに遣える防災関係者とMCO関係者たちをここにお戻しください。
どうぞ、この祈りを聞き入れたまえ。
アーメン。
神はあなた方とともにある」
『アーメン』
『アーメン』
お父さんとお母さん。
元気はいいね。
『アーメン。ブロッサム・ニンジャ、感度良好』
妹の、しのぶから。
『アーメン。ディメイション・フルムーン、オンライン』
弟の、みづきから。
通信に問題なし。
2人はあんまり、信じてない感じ。
「・・・・・・アーメン」
最後は、私のすぐ後ろから聞こえた。
安菜がいる。
私の席の後ろに、急いでつくった席がある。
アイツが今着ているのは、破滅の鎧だよ。
ただし、あの全身の角はない。
今の鎧は、木目もようの丸い節々を持つ、太いスーツ。
あの角は、ボルケーナ先輩と魂呼さんが「ム~ン」と念じて手でこねたら、丸くおさまった。
・・・・・・異能力って、スゴいな。
それを着てる安菜が、神さまを一番信じてるはず。
私はゲキを飛ばす。
「いい? 今日、空挺降下をするのは私たちだけ!
ヘリコプターも飛ばない!
だけど私たちは飛べる!
嵐にだって勝てる!
それがスーパーロボットなんだよ!」
・・・・・・無線的には無音のはず。
だけど、キョトンとしてる雰囲気が伝わる!
「あんたらしくないね」
安菜に笑われた。
「あんたとおなじにね。
私だってたまには、カッコつけたいんだよ」
聞こえる声は、まあまあ落ち着いてると思えた。
で、ありますように。
『降下、30秒前』
お父さんの声とともに、雷切の底が開いていく。
雲で弱まった日の光。
前、ここが開いたときは、背の低いまばらな木。
ところどころに残った雪と、花をちりばめた草原が見えた。
むき出しの地面は、火山らしいゴツゴツした岩はだ。
夏の高山ならではの光景が、すぐ近くにあった。
だけど今は、はるか下まで雨つぶだよ。
場所はおなじ、日本の3大霊山の一つにも数えられる百万山。
今日は大雨で荒れている。
ワイヤーで降下されるウイークエンダー・ラビット。
赤い角張った装甲。
太い、人間とは逆に曲がるヒザ。
『降下、10秒前』
モニターのかたすみで、進むカウントダウン。
「3、2、1。降下、降下、降下!」
ワイヤーを解除する。
ウイークエンダーが落下する。
腹ばいの体制になる。
両腕を広げる。
前はなかった新装備、赤いスカート。
炭素繊維の翼。
忘れずに広げ、空気のブレーキをかける!
このスカートが、姿勢制御をしてくれる。
さらに、ヘリコプターみたいな羽が内蔵されている。
ウイークエンダーを動かす無限炉心から、強烈な電力が飛行能力を与えてくれる。
おなじものが、ブロッサム・ニンジャとディメイション・フルムーンももってる。
雨をおいぬく。
地表が近づく。