209 メロ共和国の情報
「んだよ、もう~」
ムハドはぼやきながら、身体を起こして、木片書簡ベッドの上であぐらをかいた。
「……ったく、孫使いが荒いぜ、じいちゃん」
「ムハド、聞きたいことがあるんすよ」
リートが言い、長老は軽く咳払いすると、ムハドに聞いた。
「お主、ウームーへの遠征交易に行く前に、メロ共和国に行ってたと聞いたのじゃが?」
「んん……?メロ共和国に、行ってた……?メロ共和国……」
ムハドは目をこすりながら、何度かメロ共和国、と繰り返した。
そして、んん~!と、両腕を真上にかざして伸びをすると、眠気も取れた様子で言った。
「ああ、たしか、行ったな!つっても、たしか半年前とか、それくらい前だぜ?」
「うむうむ。ちょうどいい頃合いじゃ」
長老は満足そうにうなずき、言葉を次いだ。
「メロの国の情勢について、少し調べることにしたんじゃ」
「あっ、そう」
「なにか、交易に赴いた際、気になることはなかったかの?」
「ん~」
ムハドは記憶をさかのぼるかのように、腕を組んだ。
「なにより、国のキャラバンが、増えていたのが、一番印象的だったかな」
「ほう」
ムハドは話し始めた。
「クルール地方だと、どちらかと言えば小国や村にキャラバンが多くて、大国は交易の受けを充実するっていう状況が出来上がっているだろ?」
「うむ」
キャラバンというのは言わずもがな、危険の多い職業であり、また、大国のほうは流通の中心地となるため、基本的には物資が充実していた。
つまり、大国はあまりキャラバンを派遣することはなく、小国や村がその任を受けることが多かった。
「メロの国も、キャラバンがいない訳ではないんだけど、前行ったときは、ものすごい増えたな~って思ったんだよな~」
「ふむ」
「国の至るところに商隊がいたんだ。それで、別の国のキャラバンかと思ったら、いや、みんな国内のキャラバンなんだって聞いてな。メロの国もキャラバン業に本腰を入れるんだなって、思ったんだ」
リートはムハドの話を聞くと、長老に言った。
「キャラバンが増えたから、ラクダも必要になってるってことっすね」
「まあの。ごくごく自然な理由じゃな……」
「あぁ、そういうことか。ラクダを求めているんだな?メロの国が」
ムハドの問いに、長老もリートもうなずいた。
その長老がまだなにか、思索を巡らせている様子を見たリートが、長老の考えている言葉を代弁した。
「なんでメロの国では、キャラバン達が増えたんじゃろう?って、長老が言ってるっす」
「あぁ、分かってる」
「……」
しばし、沈黙が続いた。
「……死の商人、キーフォキャラバンの可能性を考えてるんだな、じいちゃん」
沈黙を破って、ムハドが言った。