210 死の商人、キーフォキャラバン
「キーフォキャラバンって、いやそれ犯罪じゃ……」
キャラバンの中には、剣や槍、弓などの武器を大量に交易するという者達がいる。
大量の武器は、争いを生み出す。
しかも、その武器の流通量を操作することで、争いの勝敗をも左右してしまうことから、その武器の価値は高騰し、結果として、そのキャラバン達は、高い利益を得ることが約束されていた。
大量の金と、何より、大量の人々の命が失われることから、彼らは、こう呼ばれるようになった。
死の商人、またの名を、キーフォキャラバンと。
「メロの国が、キーフォキャラバンを派遣しようとしてるってことっすか?」
「まだ分からぬ。仮定の話じゃよ、リート」
クルール地方では、大量の武器を交易することは禁止されている。
これは当然、武器流通の結果、国同士、村同士で争うことがないようにとつくられた制度で、ひと昔前、アクス王国が中心となって、武器の交易制限制度は流布され、クルール地方全体に広げられた。
「ひと昔前などは、クルール地方中の各サライにアクス王国の護衛がいて、交易品の確認を必ずやってたんじゃが」
「最近はそんなこと、やらなくなったっすね」
「うむ」
――カン、カン、カン……!
中央広場の高台からであろう、鐘の音が、長老の家の書庫にも響いてきた。
「おっ、どこかのキャラバンが戻ってきたみたいっすよ」
「うむ」
長老は、ムハドとリートを交互に見て、言った。
「ラクダを送ることが、最悪、この平穏な地方に災いを招いてしまうやもしれんと考えると、やはり慎重にならざるを得ないのじゃ」
「そうだな」
「さすがっすね、長老」
「わしも、こう見えて、長いこと生きてきたからの」
「こう見えて?」
「大丈夫。見たまんまっすよ、長老」
「やかましい!そこは乗らんかい!……まあ、ええわい。帰ってキャラバン達を、出迎えにゆくとするか」
長老は、書庫から出ていった。
※ ※ ※
鉱山の村と岩石の村の運搬から、ケント商隊は帰還した。
残務はミト、ラクト、マナトの3人に任せ、中央広場にある大衆酒場内にケントは入って、カウンターで帰還した報告書を記入していた。
「ほい、これで」
「ああ。ちょっと、時間がかかったようだな、ケント」
ケントから報告書を受け取った、カウンター越しにいた店主が言った。
「まあな。岩石の村の交易担当が、なかなか会ってくれなくてな。なんていうか、あんまり交易について分かっていない様子というか、無愛想というか、そんな感じだったぜ」
「なるほど。前に交易に行った者達も、みんな、似たようなことを言っていた気がするよ」
「そうか。ただ、すごい美人だったぜ。それと、なにやらアクス王国のお嬢様っぽいんだよな」
「へぇ」
「まっ、いいや。一杯、飲もうかな」