164 リートとマナトの会話
「マナの源泉による土地環境の変化か。それで、湖の村の出現……なんか、面白くなってきたな」
ラクトが言い、ミトもうなずく。
先頭を行くジェラードが振り向いた。
「だが、気を付けておけ。もしかしたら、この先に待つ者は、盗賊かもしれないし、ジンかもしれない」
「はい」
「了解っす」
――サァ~。
風が吹き、草のなびく心地よい音が聞こえる。その中を、商隊は進み続けた。
「……」
マナトは黙ったまま、歩いていた。
「おい、マナトがまた始まってんぜ」
ラクトがミトのもとへと寄っていって、耳打ちした。
「んっ?……あっ、あれね」
ミトもマナトを見て、察した。
「賢者モードね」
そう、ミトとラクトが揶揄するくらい、マナトはなにか考え事をしていると、周りが見えていないような感じになって、反応も薄くなってしまっていた。
「……トくん、マナトく~ん」
「……あっ、リートさん」
気がつくと、リートがマナトの隣を歩いていた。
「やっと、気づいたっすね」
「す、すみません……考え事していました」
「ちなみに何を考えてたんすか?」
「ええと、マナについて、ですかね」
「ほう……」
リートは興味をそそられたような表情になった。
「前に、ジンとマナの関係性を指摘していたっすね」
「はい」
「やっぱり、別の世界出身だからっすかね。このヤスリブ世界での当たり前というか、固定概念から外れた視点、持ってるんすよね、マナトくんは」
「あはは……でも、ホントにすごいですね、マナという、不思議な力」
マナトは改めて、周りの、砂漠から移りゆく緑の世界を見渡した。
「目の前でこのような光景を目の当たりにすると、余計に感じます。砂漠に緑を発生させる……ものすごいコトです」
マナトはリートを見た。
「そう、思いません?」
「あはは!そりゃもちろん、スゴいなって思うっすよ」
「でも、よくよく考えてみれば、僕が元いた世界でも、マナがなくても、砂漠の中にオアシスって、あったんですよ」
「へぇ。マナなしでっすか。そっちのほうが不思議じゃないすか?」
「あはは、そうなんですよ。それで思ったんですけど……」
話している間にも、商隊は進み続ける。
木々が多くなり、密林のような風景へと変わってゆくのを眺めながら、マナトは言った。
「結局のところ、そこに生命が生まれるかどうかっていうのは、それに必要な環境が、整うかどうかなのかなって」
「なるほど。そうかもっすね」
――チュンッ。
ラクダのコブにとまっていた小鳥が、飛び立った。
木の上にも、草木の陰にも、様々な小動物達の気配を感じる。
辺りはもう、うっそうと繁る林の中だった。
「うん、でもやっぱり、マナって、すごい」
改まって、マナトは言った。
「あっ、あと、マナってその地方ごとにその性質があるというのも、興味深いなって思います」
「ウームーの人が言ってたんすけど、もともとマナ自体には、そのすべての性質が宿ってるらしいっすよ」
「へぇ!」
「マナに関しても、ジンと同様、ウームーの地では盛んに研究がされていたっすよ。……んっ?」
ジェラードが、商隊を止めていた。
「誰かいるぞ」