165 湖の村
ジェラードの目線の先、木と木の間に、一人の男が立っていた。
こちらと同じように、男もこちらのほうを見ていて、やがて慌てた様子で、商隊のほうへと走ってきた。
背は高く、黒と茶色の、獣の皮を加工してつくった服を身にまとい、頭には、鮮やかな鳥の羽がついたオシャレな帽子を被っている。
男の背中には、木の実や果物などを入れるカゴが背負われていて、採取の途中と思われた。
「ま、まさか、あなた逹は、アクス王国の……!」
「あぁ、違うんだ。紛らわしくて、すまない」
どうやら、ジェラードのターバンと白装束を見て、アクス王国の者と間違ったらしい。
「俺たちは、キャラバンの村のキャラバンだ」
「キャラバンの村……あっ!ラクダの交易で、いま、クルール地方の随所を回っているという?」
「そうだ。キャラバンの村から、そのラクダの交易で、湖の村というところに来たんだが」
ジェラードが答えると、男は喜びの表情を浮かべた。
「お待ちしておりました……!私は、湖の村の住民で、ジャンといいます。こちらへ……」
男の先導に従い、商隊は林の奥のほうへと進んでいった。
※ ※ ※
夕闇が、迫る頃。
「うわ~、すげえ!これが、いわゆる、水平線ってヤツか~!」
窓からその景色を見たラクトが、はしゃいで言った。
木造建築の、大きな広間のある建物の中……いわゆる集会所に、ジェラード商隊は招き入れられていて、そこの窓から、その広大な湖は見えた。
あまりにも広く、集会所から見える湖の先は、水平線となっていた。
その水面《みなも》は穏やかに、降り注いでいる赤オレンジの光をキラキラと反射する。
所々で魚が飛びはね、船を浮かべて釣糸をたれる村人逹の影がのびる。
窓から見える景色それ自体が、一風の絵画のように美しかった。
「あなたが村長だったのか。随分とお若い」
「あはは……実は、そうなんです。でも、本当に助かりました!これで、我々の村もようやく、近隣の村との交易が可能になります。……では、これを」
先に出会った、鳥の羽をつけたオシャレな帽子を被っていた男……湖の村の村長、ジャンは、ジェラードに木箱を差し出した。
交易品だという、村特産の乾燥した草が入っていた。
「おぉ、これは……まさか!?」
リートが目を輝かした。
「あぁ……クルール地方では、珍しい種類の薬草だ……!」
「えっ、薬草……?」
すると、ミトも気になったらしく、しれっとリートとジェラードの横に寄っていった。
「村長、これは?」
「ええ。湖の向こうのほうで栽培しておりまして、この湖の豊富な水と……」
村長とジェラード、リート、そしてミトも混じって、何やら込み入った話をしていた。
ラクトとマナトは、少し遠巻きに、それを見守っていた。