166 おもてなし
「ミト、薬草系の話、好きなんだよな」
小さい声で、ラクトがマナトに言った。
「そうだよね。交易中にも、いろいろ採取してるし」
「つ~か、あのオシャレ鳥帽子兄ちゃんが、この村の村長だったとはな」
「確かに。かなり若いよね」
改めて、薬草について語る、若い村長、ジャンを見る。
見た目は、20代後半か、30代前半あたり。
余分な肉がついておらず、小麦色の健康的な肌色に、穏やかな優しい茶色の目をした、誠実な青年だった。
「……なるほど。よく分かった。ありがとう、村長」
話を聞いていたジェラードが村長、ジャンに言った。
「あぁ、よかった!」
ジャンは安堵の表情を浮かべた。
「てっきり、今回のラクダとは割に合わないと、言われてしまうのかと……」
「いやむしろ、思っていた以上の収穫だよ」
「それはありがたい……それでは」
そう言うと、ジャンは立ち上がった。
「皆さま、まあ、なにも無いのですが、せめて食事くらいは」
他の、湖の村の村人逹も集会所にやって来て、おもてなしの料理がジェラード達に振る舞われる。
先の釣りで釣ったものか、大きな焼き魚や、木の実たっぷりのスープが並んだ。
「おぉ~」
「ぜったい、美味しいヤツっすね、これ」
「よろしいのですか?」
「もちろん。せめてもの、交易のねぎらいでございます」
皆、村の人々の好意に預かることにした。
「ムグムグ!んめ~!この魚、んめ~!」
「ズズズ……この木の実スープ、優しい味付けで美味しい!」
ラクトとミト、どちらも、その料理の美味しさに舌鼓を打った。
この村に限らず、アクス王国でも鉱山の村でも、基本的には、キャラバンに対して良心的に接してくれることが多い。
盗賊や獰猛な生物、そしてジンなどの危険をくぐり抜けながら、交易を行うキャラバンのことを、皆が大事にしてくれているのだろう。
マナトは料理を食べながら、窓の外を眺めつつ、思った。
すると、その窓に、ジェラードとジャンが立った。
「この村には、どうやらラクダは一匹もいなかったようだな」
「はい。実はアクス王国にも依頼をしていたのですが、ジンの影響で交易を中止していると、言われてしまいまして……はは」
ジャンは苦笑した。
「あぁ、なるほど。だがもう大丈夫だろう。サライでも、多くの商隊を見かけたからな」
「そうですか!それは、いいことを聞きました」
「しかし、やはりお若いな、村長」
ジェラードがジャンへと、顔を向けて言った。先にも言っていて、これは2回目だ。
ジャンはなにか察した様子で、口をつぐんだ。ジェラードも、それを承知で聞いているようだった。
この地域で、そして、あなた逹に、なにがあったのか?ということを、暗にジェラードは聞いていた。
「……もしかしたら、お察しかもしれないですが、私たちは、実はこの土地に来てから間もないのです」
「まあ、ここの湖を中心とした土地自体、実は新しくってな。少し前まで、砂漠だったのが、マナの影響かなにかで、環境が変わったようでな」
「あぁ、なるほど、そうだったのですか……」
窓の外、静かになった夜の湖を眺めながら、ジャンは言った。
「……我々は、クルール地方の民ではありません」