157 サライにて/湖の村の疑惑
「3人は、この湖の村というのを、知っているか?」
ジェラードに問われ、ミト、ラクト、マナトの3人は一度顔を合わせ、その後、3人とも首を横に振った。
「知らないよな。ちなみに、俺もリートも、知らないんだよ」
「あっ、そうなんですか」
「そこが、問題なんだよ」
「そうなんですか?」
ジェラードは首を縦に振ると、話を続けた。
「このヤスリブ・クルール地方では、アクス王国、次いでメロ共和国という2つの大国を中心として、長い期間、それぞれの国や村が協力関係にある地方だ」
ジェラードの言葉に、ミトもラクトもマナトも、うんうんとうなずいた。
「その国と国、村と村を、キャラバンは繋いでいる。そして、俺たちは、このクルール地方に関しては、様々な国、村に、それこそ何度も足を運んでいる。過信してる訳ではないが、かなり詳しいと自負はしている」
「はい」
「ちょっとしたオアシスですらも、頭の中に入っている。場合によっては、緊急で利用するときもあるからな」
「はぁ」
「その僕らが、分からなかったんすよ」
リートもここで口を開いた。
「僕もジェラードも、このリストを見たとき、こんな村あったっけって、感じだったんすよね~」
……なるほど。
マナトはここにきて、副隊長2人が加わっている理由が分かった気がした。
「つまり、この依頼は、虚偽の可能性がある……と」
「あっ!マジか!」
マナトが言うと、ラクトも大きな声を出した。
ジェラードもうなずく。
「まあ、行ってみないと分からないけどな。本当にあるかもしれない」
「はい」
ミトが手をあげた。リートが指差す。
「はい、ミトくん」
「それじゃあ、何のために、相手は依頼を?」
「それは、ぜ~んぜん分からないっす」
「盗賊の仕業とか?」
「可能性はゼロではないっすけど。でも、例えば相手が盗賊だとしたら、要求はもっと金目のものになるハズ。ラクダ数匹の依頼にはならないし、今回に限っては、盗賊の路線は薄いと思うっす」
「なるほど~」
「とりあえず……」
ジェラードは、改まって様子で言った。
「俺とリートはそんな感じで、今回の案件を見ている。それを、知っておいてくれ」
「はい」
回廊の一角での井戸端会議は解散となった。
「ふぅ、マジメな話はつまらないな」
「ははっ、よくフザけないで言えたっすね」
ジェラードとリートは話しながら、サライの管理人のところへ向かうため、回廊を曲がって行った。
マナトは改めて、中庭に出た。
「あっ、他のキャラバン達だ」
どこのキャラバンかは分からないが、到着して中庭にラクダを誘導し、荷を下ろしている者達がいる。
「だんだん、キャラバンを出す国、村が、増えてきましたよ」
管理人の使いの者がやって来て、マナトに言った。
「ジンの影響で途絶えていた交易が、キャラバンの村が大々的に交易を再開したのを皮切りに、どうやらクルール地方全体、交易が解禁されたような感じがありますね」
「そうですか」