156 2人の副隊長
「り、リートさん!?」
「ち~っす」
驚いているミトとラクトに、リートは相変わらずの感じで挨拶した。
「んじゃ、5人だな。俺が一応、隊長をやろう」
ジェラードが言った。
「おなしゃ~す」
リートも軽い調子で同意した。
ミト、ラクト、マナトの3人も、当然、異論なしだった。
キャラバンの村では交易に行く際、必ず隊長の名を冠している者が一名以上、その交易に加わっていなければならない、というしきたりがあった。
もちろん、ムハド大商隊で副隊長をしている3人とも、小単位での商隊の隊長としての資格は持っていた。
「湖の村……ここか。サライを一度、経由する必要があるな」
「そうですね」
リストの地図を見ながら、軽く打ち合わせを行う。
その光景を見た大衆酒場内のキャラバン達が、少しざわつき出した。
「マジかよ、ジェラード副隊長とリート副隊長、一緒に行くのか?」
「なにか重要な交易なのか?」
「いや、今回のラクダ運搬のひとつらしいが……」
周りの反応は、ジェラードとリート2人が同じ交易に加わることが、かなり珍しいことを物語っていた。
「あっ、そういえば」
周囲のささやかれる声を全く気にしていない様子で、ジェラードは向かいに座るリートを見た。
「ムハド、今、なにしてるんだ?」
「少し前に、とうとう長老に捕まって、それ以来、ずっとほぼ監禁状態で長老にこき使われてるっす」
「ククク……なるほどな」
どうしようもないといった様子で笑うと、ジェラードは酒場の天井を仰いだ。
「こりゃ、しばらくは遠征交易はお預けになっちまうなぁ」
※ ※ ※
ラクダ十数匹を引き連れ、商隊はジェラードを先頭にして、砂漠を歩きながら、目的地である湖の村へと向かっていた。
ジェラードはマントでなく、頭にターバン、肩から下は白装束をまとっていた。
どことなく、アクス王国で王宮商人が身に付けていたものに似ている。
「ジェラードさんにリートさんとか……どれだけ豪華なんだ……」
「だよね、滅多にないことだと思う」
目の前で大商隊の副隊長が2人、肩を並べて歩いていることが信じられないといった面持ちで、後ろで歩くラクトとミトが言った。
「でも、こんなこと、僕みたいな立場の者が言うのも何なんだけど……」
2人の少し後ろで歩いていたマナトは、前置きした上で言った。
「あのレベルの人たちなら、2人で一緒に行くより、バラけて別々の交易に赴いたほうが、効率がいいんじゃないのかなって、ちょっと、思っちゃうけど」
マナトの言葉に、ラクトは、うんうんと同意のうなずきをした。
「それはある。てか、普段はそうしてるハズだぜ」
「湖の村に、何か用事でもあるのかな?」
「あっ、なるほど。たぶんそれだぜ、ミト」
やがて、ジェラード商隊は、中継地であるサライに到着した。
かつて、アクス王国での交易の際、最初に泊まったサライだ。
中庭でラクダ達を誘導し、荷物を宿泊スペースへと運ぶ。いつもの動き。
と、ジェラードは商隊の皆を、回廊の一角に集合させた。
「湖の村のこと、ちょっと話しておこう。いいか?リート」
「そっすね、先に話しといたほうが、いいっすね」
「えっ、どういうことですか?」