155 キャラバンの村にて
キャラバンの村の中央広場にある、大衆酒場。
そこには今日も、多くのキャラバン達の姿があった。
「どれどれ……」
鉱山の村から帰還した翌日、マナトは大衆酒場の開いた大扉の前に立ち、そこに張り出されている各村や各国の返書をもとにつくられたリストを眺めていた。
……減ってはきているな。
まだ多くのリストが張り出されてはいるものの、着実に、リストは消化されつつある。
「次はどこに行くかな……おっ?」
マナトは一枚の張り紙を手に取った。
「湖の村って書いてる」
キャラバンの村にも、密林の中に湖はあるが……少し、マナトはこの湖の村が、気になった。
マナトはそのリストを持ったまま、大衆酒場の中に入った。
一角で、ミトとラクトが卓を囲って座って飲み食いしている。
「ミト、ラクト。次の村なんだけど……」
マナトは2人に、リストを見せた。
「湖の村?」
「ん~、どこだろ?」
「あっ、2人とも知らないんだ、この村」
ミトもラクトもうなずいていた。
無論、キャラバンになるまで、砂世界に足を踏み入れることが、この村では習慣的になかった。
そのため、アクス王国のような大国と違い、近隣であったとしても、規模が小さかったり、鉱山の村のように交易を頻繁に行っていない村に関しては、認知されていないことが多かった。
「僕は別に大丈夫だよ。湖の村で」
ミトが言った。
「んじゃ、湖の村、行くか」
ラクトもうなずいた。
「それじゃ、ケントさんに報告してく……」
「残念だが、ケントは他のメンバー達と一緒に、もう別の交易に行ってしまったよ」
「えっ?」
低い、ダンディーな声が、隣の席から響いた。
ムハド大商隊で、リートと同じく副隊長をしている、前に広場でマナの源炎石をマナトに手渡してくれた、ジェラードが座っていた。
屋内だからか、前に被っていたターバンは外されていた。
茶色い短めの髭が印象的な、堀の深い顔に、少し長めの、ウェーブのかかった茶髪は、黒い瞳の両目の横から垂れかかっていた。
「ジェラードさん」
「よぉ、誰かと思えば、前に市場で面白かったヤツじゃねえか。たしか、マナトだったよな」
顎髭をつまみながら、ジェラードは続けた。
「俺も、ちょっとその村には興味があってな。ケントの代わりに、一緒に行ってやるよ」
「えぇ!?ジェラードさんが!?」
ラクトが、驚きの声をあげた。
「ムハド商隊は、交易が遠方な分、次の交易に向けての準備で時間がかかるんでな。他のチームや足りてないところの穴埋めをしていることが多いんだよ。そんな気にすることじゃないぜ」
「という訳で、僕も行くっすよ~ん!」
リートも、いつの間にかジェラードの席の向かいに座っていた。