148 戦闘①/デザートランスコーピオン
「なかなか、濃いな」
ケントは言うと、砂煙の前で商隊を止めた。
もわもわと、まるで濃霧のように、小さな砂の粒子が、ケント商隊の視界を遮る。
「みんな、武器を構えろ。中に何かいるかもしれん」
「うぃっす」
「フフ~ン……じゃなかった、はい」
ケントの呼び掛けに応じ、ミトとラクトは慣れた手つきでダガーを抜いた。
「よし、僕も」
「……えっ?」
マナトもまた、2人のように、ダガーを抜き、構えていた。
「おい……マナト?」
「まあまあ、見ててよ」
「おっ、おう……」
ケントは背中に背負った大剣の柄の部分に手をかけると、振り返ってリートを見た。
「そんじゃ、リートさん」
「んっ」
「いざという時は、お願いしますよ」
「あ~い」
リートは言うと、悠長にラクダのほうへと向かった。
「嘘だろ?手ぶらで歩いてたのか……」
「余裕すぎるでしょ……」
ミトとラクトが、信じられないといった様子で、リートの歩く姿を見ていた。
「はいはい、みんな、落ち着くっすよ~」
すでに何かを感じ取っているらしく、おびえて少しパニックになりかけているラクダ達を、リートはなだめて落ち着かせた。
そして、その中の一匹の背にある荷物に手を突っ込んだ。
――ピ~ン。
「あれが、リートさんの武器……!」
リート自身の背丈くらいの、大きな弓、また、長い矢のたくさん入った矢筒を取り出してきた。
「ラクダ達がおびえていたんで、ジンじゃないと思うっす」
リートは解説をするような口調で、皆に言った。
「ジンだと、ラクダ達は怖がらないんで」
……たしかに。
ジン=グールの時がそれだったと、マナトは思い出した。
「まあ、ジンとはまた別に、ヤバい生物かもっすけど。ははっ」
……やっぱり、場数が違うんだろうな、リートさん。
焦りの『あ』の字も感じられない。何もかもがいつも通りのリートの姿は、かえって頼りがいがあると、マナトは思った。
――スゥ~。
「砂煙が……」
濃い砂煙が少しずつ落ち着いてきて、やがて、何事もなかったかのように消えた。
何も、誰も、いない。
いつも通りの、砂と空の世界が広がる。
「いないぞ?」
「つむじ風が吹いてただけじゃ……」
ミトが言いかけたその刹那、
――バシャアァァ!!
マナトのほぼ足元近く、頭上高く砂柱が起こった。
「ヤバいぞマナト!!」
砂柱の中から、巨大な灰色のサソリの持つような鋏脚《きょうきゃく》がマナト目掛けて襲いかかってきた。
――ジャキッ!!
勢いよく挟み音がした時には、砂柱で再び起こった砂煙が、鋏脚《きょうきゃく》とマナトごと飲み込んでしまっていた。
「おいマナト!!大丈夫か!?」
ラクトが叫ぶ。
「クソッ!また砂煙が……!!」
ミトが駆け出すが、砂の濃霧に視界が遮られる。
――ザザッ。
「大丈夫!」
「こっちだ、ミト、ラクト」
マナトの声がした。ケントの声も聞こえる。
「えっ!?」
「なぜ……!」
いつの間にか、マナトはケントの横に移動していた。