123 大宴会③/マナトの、今の気持ち
ムハドは淡々とマナトに言った。
「俺の両親もキャラバンだったんだが、交易中に行方不明になってしまってな。死んだとも、新天地に降り立ったとも、当時は言われていたようだけど」
「そうだったんですか……」
聞いておきながら、マナトは気まずい気持ちになっていた。
それを察したかのように、ムハドが笑顔になり「でも……」と、言葉を次いだ。
「よくある話だぜ?それに、そこにいるミトも……なっ」
ミトが、神妙な面持ちで、頷いた。
「でも……」と、ミトの口が開いた。
「どちらかというと、マナトこそ、無茶苦茶じゃない?異世界からやって来たんだから」
……フフっ、確かに。ミトの言う通りだ。
今思えば、この中で一番、意味の分からない経緯でここにいるのは、僕だ。そう、マナトは思った。
「異世界から!?マジかよすげえじゃねえか!あっはっは!」
ムハドは快活に笑った。
※ ※ ※
その後、集まったみんなで、中央広場にある大衆酒場に場所を移し、おしゃべりしつつ飲み食いしていた。
「そしたらさ、マナトが『ダメだ~!!』つって、めちゃめちゃ取り乱してたよな」
ラクトが、アクス王国からの交易帰りで、オアシスでのスナネコを見つけたときのマナトの様子をしゃべっていた。
すると、ケントも、
「たしかに、あん時のマナトはどうかしたのかと思ったぜ」
「スナネコ抱いて『こんなかわいいコを食べることなんてできない~!!』って」
「あはははは!なんだそれ!」
ラクトのものまねに、ムハドが大笑いしている。その横で、マナトはただただ苦笑していた。
「え~、スナネコちゃん、かわいいと思うけどな~」
「そうね、かわいいのは私も認める」
「でしょ~!ホントにスナネコちゃんってモフモフでさ……」
「分かるわ」
ステラとセラが楽しそうに会話を始めた。
「マナト。んじゃ、俺からもひとつ、聞いていいか?」
ムハドの目が、マナトを静かに見つめていた。
「はい、何でも」
「もし、前のニホンっていう国に戻れる方法があるとしたら、戻りたいか?」
「そうですね……」
マナトが異世界に来た経緯については、先に軽くムハドに話していた。
……もし、戻れるとしたら、か。
ふと気がつけば、集まった皆、それぞれ思い思いに飲み、食べ、話している。
その光景を眺めながら、マナトはムハドに言った。
「今はまだ、戻りたいとは思えません」
「そうか」
「ですが……」
マナトはおつまみに手を伸ばした。
「ちょっとずつ、僕自身、前と変わってきたところは、あるかもしれないです」
「ほう?」
「ちょっとくらい、前の世界でよかった部分も、あったのかもなって」
「おぉ、それ、いいじゃん」
夜も段々と更けつつある中、人々の活気で満ち溢れる村の中央広場は、そこ一帯だけ夜空の星が地上に降りてきたように、光り輝いていた。