124 交易品
気がつけば、3日経っていた。
飽くことのないと思われた大宴会も、次第に落ち着いて、夜は穏やかさを取り戻していた。
日常へと戻ってゆく、キャラバンの村……といっても、なにもかもが初体験のマナトにとっては、日常すらも、非日常でしかなかった。
打って変わって、昼。
「いくよ~、コスナ~」
――ニャッ。
マナトはコスナと共に家を出て、中央広場へと向かった。
……いい天気だなぁ。
歩きながら、マナトは思った。
いつ外に出ても、晴れしかない。この村や、ヤスリブの人々にとっては、雨が希少なのだというが、マナトは日本に住んでいた経験もあってか、外の明るい日差しを浴びるだけで、晴れやかな気持ちになった。
「おぉ……なんだこれ……」
広場に到着し、その騒がしさに、マナトは思わず驚きの声が漏れた。
――ニャニャッ!
コスナもビックリしたらしく、マナトの足に抱きついてきた。
……これ、コスナ連れて来るの、失敗だったなぁ。
「あら~、この服、いいじゃない!」
「これ、黒曜石とも、ちょっと違うなぁ。色は黒いんだけど」
「この剣かっけえ!」
ところ狭しと路上市場がたち、村人達の、品定めに楽しむ声が飛び交う。
夜が落ち着きを取り戻した代わりに、昼の中央広場では、ムハド大商隊の交易で得た、大量の交易品が売りに出され、活気が満ちみちていた。
さながら、大手量販店でのバーゲンセール状態だ。
マナトはコスナを抱き上げると、人通りが比較的少ない、路上市場の外側から回り始めた。
――スッ。
と、マナトの左右の目を、後ろから差し出された両手が覆った。
「だ~れだ?」
「いや、ステラさんですよね?」
「せいか~い!」
両手が離れ、マナトが振り向くと、ステラが笑顔で立っていた。
「久しぶりに目隠しされましたよ、ステラさん」
「市場来てたんだねって、あっ!」
ステラは、マナトに抱えられ、丸くなっているコスナを見た。
――ニャッ?
「こ……これが、前に宴会で話してた、スナネコちゃん?」
「あっ、そうです、そうです。でもこんなに人が多いとは……」
「か、かわいい~!!」
ステラの頬が紅潮した。
「ま、まだ子供じゃない!ちょ、ちょっと、抱かせてもらっても……!」
「いいですよ。他の人に、触れたことないから、嫌がるかもだけど」
マナトはステラにコスナを渡してみた。ステラの胸の中に、コスナがおさまる。
――ニャッ。
「あっ、よかった。大丈夫みた……」
「かっ……か……かわいいいいいい~!!!!」
ステラが天を仰いで、絶叫した。母性本能が爆発したようだ。
「でっ、ですよね!かわいいですよね!」
「かわい過ぎるぅぅ……ねえ、ちょっと、抱いててもいい?」
「ぜんぜん、大丈夫ですよ」
再び、ステラも加わって、マナトは路上市場の散策を開始した。
「……おっ?」
市場の半ばまで進んだところで、マナトは足が止まった。
ガラスのような、手のひらサイズの、透明な石。
「すみません、これ、触ってみてもいいですか?」
「あぁ、いいよ」
……どこかで、見たような……あっ。
「洞窟の中の、石にそっくりだ」
マナの洞窟で見た、トパーズ色の石の質感と同じもののような気がした。
「でも、ちょっと、違うな。それに、少しあたたかい……」
その石の中には、まるで火が灯っているかのように、赤い色をした、液体とも気体ともとれるなにかが、うごめいていた。