82 ジン=グール
「……ククっ」
「……ケント?」
笑うケントに、フィオナが不審がって声をかけた。
そして、子供の傾いた目線も、ケントに向けられた。
「お前、頭悪いだろ」
ケントは、子供を見下ろしながら、挑発するように言った。
「せめて、大人に変装しとくんだったな。この砂漠じゃ、あまりに不自然だぜ」
「お兄さん……」
「あとな、狂気隠すの、下手くそすぎるぞ」
「……あははは!!」
子供……ジンが、ぞっとするような顔で笑った。そして、ぶるると全身が小刻みに震えた。
「まず、お兄さんからぁ……!!」
ジンが跳躍した。
同時に右腕を伸ばす。その右腕は黒と緑を帯びながら膨れ、ドクドクと脈打ち始めた。腕というより触手に近く、どんどん大きく、長くなってゆく。
そして、ムチのようにしならせながらその右腕をブン!!とケントに振り下ろしてきた。
ケントはサッと横に緊急回避し、受け身を取った。
――ドォオン!!!!
ジンの右腕が勢いよく地面に叩きつけられた。砂が勢いよく舞い上がり、衝撃波が皆に伝わってきた。
すかさず、右腕が今度は地面スレスレに遠心力の勢いを乗せてケントに向かって飛んでゆく。
ケントが、背中の大剣を抜いた。
――ザンッ!!!!
「おお!!」
「やった!!」
ケントの放った大剣の一撃が、一瞬にしてジンの右腕を切り飛ばした。
切られたその物体は、空中に飛んでいる間にサァ~っと塵となって消えた。
「き、消えた……!?」
ルナとウテナが、唖然としてその光景を眺めていた。
ジンの右腕の、ケントに切断された部分がムクムクとうごめく。
ケントはすぐに大剣を構え直した。
「気をつけろ!すぐに再生して、また襲いかかってくるぞ!」
ケントが皆に言った。
「ジン=グールだ!人間を食糧としてる!!」
「!!」
右腕は、のたうち回りながら、みるみる再生してゆく。
――ピュン!ピュン!
「むっ!」
マナトの放ったテッポウウオを、ジンは再生中の右腕で払った。
「今だ!」
――ヒュッ。
一瞬にして、ジンの背後にラクトが回っていた。
「おらぁ!!」
ダガーがジンの背中を捉えた。
「チッ!浅いか……!」
ジンが後ろを振り向くと同時に、右腕がラクト目掛けて飛んで来る。
ラクトは深追いはしない。すぐに身を引いて攻撃をかわした。
「こっちだ!!」
横からミトが仕掛ける。
しかし、ジンの右腕の動きがそれ以上に早かった。
――ブンッ!!
もの凄い勢いで、ミト目がけてなぎ払う。
――ガッ!
ミトに右腕が直撃し、その衝撃でミトは真横にふっ飛んだ。
「キャァ!!」
ウテナが悲鳴をあげた。
「ミトォォ!!」
ケントが叫んだ。
ミトはくるっと受け身を取り、すっくと立ち上がって、また姿勢を低くとって、ゆっくり息を吸った。
……あの時と、同じだ!!
「さすがにグリズリーより強いけど……これくらいなら、大丈夫!!」