転移したら砂漠だった。キャラバンになって、第二の社会人生活、送ります。

　「あれが、ジン……なの？」
　ウテナが、信じられないといった様子で言った。

　「ああ。完全にな」
　ケントが後ろを振り返った。

　「子供に化けているんだ。こんなところに、子供が一人でいるハズがないからな」

　背は小さく、中性の端正な顔立ちをしていて、少しクセっ毛のある茶色い髪の毛は首筋まで伸び、男の子とも、女の子ともつかない容姿をしていて、非常にかわいらしい。

　しかし、首が据わっていない様子で、顔が横に傾いていた。

　それでいて、大きな茶色い目は、完全に瞳孔が開いていて、眼球が飛び出しているうように見えた。

　そして、口が少し、汚れていた。

　「あの黒い布、盗賊団の……！」
　「！」

　ルナが言うと、皆、思い出した。

　いま、子供が着ている黒い装束は、間違いなく、商隊が交戦した盗賊団が身に付けていた装束と同じものだった。

　どんどん、商隊に近づいてくる。

　底知れぬ恐怖感が、皆を包んだ。自然と皆、武器を持ち、身構えた。

　「盗賊団をやったのか……！」
　「王国の外で暴れていて、南方に向かったって聞いてたけど……！」

　ラクトとミトが言った。すでに臨戦体制に入っている。

　ウテナとルナは、少し、震えていた。

　ケントとフィオナは、それぞれの武器を持つ手に、力がこもっていた。

　ふとマナトは、ラクダ達を見た。

　どのラクダ達も、長いまつ毛の下は、いつもの澄ました眼差しをしていた。

　いつかの盗賊団との戦いの時の動揺はなく、落ち着いた様子で目の前のやり取りを見守っている。

　……ラクダ達は、全く怖がっている様子はない。

　一度、ジンとの戦いを経験したのもあってか、マナトは幾分、冷静に今の状況を整理していた。

　……おそらく、ラクダ達は目の前の子供には、敵意を感じていないんだ。でも……。

　マナトにも、ゆっくりと迫り来る相手の異様な雰囲気というものは感じていた。

　どこか、ジン＝マリードのまとっていた空気とは、違う。

　この目の前の子供からは、普通の子供が醸し出すことのできないような、狂気が、全身から溢れていた。

　そして、その狂気は、おそらく、ケントやフィオナをはじめ、人間だけに向けられている。

　……このジンは、おそらく……みんながよく言っている、ヤバいほうのジンってヤツだ！！

　とうとう子供は、ケントの目の前までやって来た。

　「お兄さんたち、お兄さんたち」

　子供が口を開いた。少しうわずった、少年少女期特有の、高い声が響き渡った。

　「ねえねえ、どこから来たの？」
　「……」

　その狂気の滲む眼差しで、ケントだけでなく、フィオナや、後ろにいる一人ひとりを観察するように、皆に語りかけるように子供は言った。