80 子供
ラクトとウテナが、後ろに下がってきた。
「ねえ、聞いたんだけど……」
ウテナが4人に、ひそひそ話をする感じで小さな声で言った。
「フィオナさんとケントさんて、西のサライで、何かちょっと、あったの?」
「あっ」
マナトは思い出した。
夜中ラクトと2人で風呂上がりに回廊内を歩いていたとき、ケントとフィオナが2人で歩いていた。確か、サライの出入り口に向かっていたような。
「僕もラクトと一緒に見てた。……あんまり口外するのはナンセンスと思ったから、言ってなかったけど」
「すまん、マナト。話の流れで言っちまった」
てへっという感じで、ラクトは舌を出した。
「でも、それじゃあ、やっぱり……!」
「いや、待ってまって……!分からないよ?まだ、そういう関係とかは」
ケントとフィオナは果たして、恋仲になっているのかという議論で、5人は盛り上がり始めた。
ウテナとルナはその話題に興奮しているようで、それにミトとラクトも混じって、ああでもない、こうでもないと言い合っている。
……旅も終盤。フィオナ商隊とも、西のサライでお別れだな。
皆に混じって話を聞きながら、ちょっと、寂しい気持ちに、マナトはなった。
……なに感傷に浸ってるんだ。まだ無事に交易品を村に持ち帰ってすらないじゃないか。
「確かに……」
ルナが、先頭を歩いている2人を見ると、声を潜めた。
「どこか、寄り添っているというか、距離が近い感じが……」
「いや〜ん!」
ウテナが叫んだ。
「んっ?」
ケントとフィオナが、後ろを向いた。
「おう、どうした?」
「い、いや!何でも!」
「んっ?」
「フフっ、まあ、いいんじゃない?」
ケントとフィオナは再び、前を向いた。
「わりと、さっさと帰るタイプなのね、ケント」
「いやまあ、本来なら、アクス王国でもう少し滞在を続けていたんだが……この状況だし、仕方ねえよ」
「情報収集が、出来てないものね」
「ああ。今後の参考のために、王国内の情勢とか、他の国や村の情報を、詳しく聞いて、キャラバンの村に戻った後……」
「そうよね」
「……」
「ケント、気をつけてね。あなた達のルートのほうに、ジンは移動しているかも知れないわ」
「……」
ケントは応えない。まっすぐ、前を向いていて、少し、目を細めている。
「……ケント?」
ケントが止まった。右手を横に出す。全体止まれの指示だ。
遥か目線の先を見ていたケントが、背中の大剣の柄に手をかけた。
「最悪だぜ……!」
「!?」
遠くのほうで、子供が一人、こちらを見ている。
歳はおそらく4歳か5歳くらい。裸足で、黒い布を身にまとっている。
ここは、砂漠。そこに、一人の子供。蜃気楼のような、異様な光景だった。
そして、こちらが止まったのに気がつくと、子供のほうからこちらに向かって歩いてきた。
「……ジンだ」